中国発EC「Temu」は困窮した状況につけ込んだ「貧困ビジネス」なのか?アメリカZ世代が人気の理由を分析

「Z世代に異常人気のeコマースサイト『Temu』はAmazonを超えるのか?」。「NY Future Lab」のメンバーが、中国発のEC通販サービス「Temu(テム)」が人気を集める背景について語りました。

「Z世代に異常人気のeコマースサイト『Temu』はAmazonを超えるのか?」。「NY Future Lab」のメンバーが、中国発のEC通販サービス「Temu(テム)」が人気を集める背景について語りました。

interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。

3月15日(金)のテーマは、「Z世代に異常人気のeコマースサイト『Temu』はAmazonを超えるのか?」。「NY Future Lab」のメンバーが、中国発のEC通販サービス「Temu(テム)」が人気を集める背景について語りました。

Temuの急成長にアメリカZ世代はどう見る?

中国発祥のPDD Holdingsが運営するeコマースサイト「Temu」が、2023年あたりからZ世代の若者のあいだで話題になっています。

大人たちの注目も急激に集めたきっかけは、今年のスーパーボウルのCM。1本700万ドル(日本円でおよそ10億円)のCMをなんと3本も打ち、アメリカ人にTemuの存在を知らしめました。

Temuの大きな特徴は、商品価格の安さ。スニーカーが50セント、携帯ケースが35セント、ランジェリーセットが5ドル、スマートウィッチが7ドルの価格で販売されており、中国ではeコマース大手のアリババに売り上げで勝っています。アメリカでは去年1年で株価が8割近くも上昇し、投資家の期待が高まっています。

そんなTemuの成長に貢献したアメリカZ世代は、実際にどんなものを買っているのか? ラボメンバーに聞いてみました。

メアリー:Temuで買ってみたよ。3つほど買ったんだった。どうしても買いたくなっちゃうんだよね。初めてアプリを使う人には、ものすごく割引をしてくれるから。ほとんど無料に近い値段になるし、それで我慢できなくて買っちゃった。本当に安かったから。

買ったのは、パスタを茹でたお湯を取り出しやすくするディバイダー(仕切り付き容器)。それから、書類のオーガナイザー(整理箱)。部屋に収納が少ないからね。それと、桜の花の照明器具を買った。どれもとても安かった。

でも、買うときからTemuはあまりよくないなってわかっていた。安く提供できる理由は個人情報をオンラインで売ることができるからとか、そんなことを聞いたことがあるんだよね。だから複雑な気持ち。でも、本当に欲しいものがあったから買っちゃったんだ。

ケンジュ:(Temuは)最初はフェイクアカウントで、詐欺かなと思った。

ノエ:ビジネス系サイトの「Business Insider」で読んだんだけど、もともとの名前の意味が「team-up」。だから、昨年の広告では「ティーム」と発音されていたけれど、今年はリブランディングされて「テム」と発音されるようになったんだって。

あと、CMでは「ビリオネアのように買い物をしよう」って言っているけど、それって笑えない? だってTemuで買い物をするってことは、そんなにお金がないからでしょう? 自分で「お金がない」と言っているようなものじゃない? それを「ビリオネアのように」なんて皮肉だよね。

ラボメンバーいわく、Temuの商品の品質はいまひとつですが、驚きの安さにつられてつい購入してしまうそう。サイトの内容も凝っており、Z世代評論家のシェリーはサイトの“ゲーム性の高さ”を指摘。「サイトに入るとクルクル回るホイールのくじが始まって、当たると最高で3万円ぐらいのクーポンが当たります。ときにはほとんど無料になり、つい買ってしまいます」と解説します。

安さの秘密は、まず中国国内で、デフレによって溢れている商品を工場から激安で買い付けます。それをアメリカの消費者に少量ずつ直接発送するため、関税がかからないというカラクリです。一方で、利益が出る顧客データ収集のために商品を激安にしているのではないかという憶測もされています。

広告予算も膨大であり、1年間に700億円とも言われており、そのほとんどがデジタル広告。結果、Temuは2023年でもっともダウンロードされたeコマースアプリとなり、2024年1月には月間アクティブユーザー5,000万人を獲得。Amazonが10年をかけた功績を、わずか1年あまりで達成しました。

生活が苦しいと安価な商品に頼らざるをえない

Temuが驚異的な成長を遂げるなか、TikTokなどのeコマースサイトのプラットフォームもオンラインで存在感を増しています。

こうしたeコマースは今後Amazonを凌ぐほどに成長するのでしょうか? ラボメンバーに意見を聞きました。

メアリー:そういえば、同じ理由でTikTokのショップも大きくなってきているよね。TikTokのショップにもびっくりするくらい安い商品がたくさんあるよ。すでに使っているアプリからの購入のほうが、簡単でいいんじゃないのかな? 

シェリー:Temuは今後、Amazonと競合するくらいになると思う?

メアリー:アメリカのマーケットに入り込む隙は十分にあると思う。私のネイリストさんはTemuが大好きで、服は全部Temuで買っているって言ってた。「そんなのすぐボロボロになるんじゃない?」って尋ねたら、「大丈夫、長持ちしているよ」って言っていたからね。

特に今って、みんながお金を節約しなきゃと思っている時期でしょう? 本当に何も買えないし、そういうときは安いものを買ったほうがいいと思うよね。だけど、もっと長持ちする、高いものを買いたいという時代が来るかもしれない。アメリカ人が国の経済がよくなるという自信が持てるようになれば、今持っている優位性をTemuは失うと思うな。

Temuだけでなく、TikTokのショッピングサイトも人気です。TikTokで買い物ができて便利ですが、Temuと同様に個人データの売買が懸念視されています。以前からTikTokにはこうした個人データが中国共産党政府に流れているという疑惑があり、アメリカ政府は資本を中国から外国に移すようにとの圧力をかけています。3月13日には、アメリカ議会下院が安全保障上の懸念があるとし、国内での利用が禁止されることにつながる法案を可決しました。

ラボメンバーが話すように、アメリカでは経済が拡大し、株価が上がっても庶民の生活に還元されず、物価ばかりが上がる状況が続いています。Temuは困窮した状況につけ込んだ「貧困ビジネス」とも言え、証拠として購入する年齢層も急激に上昇している現状があります。シェリーは「Temuの勢いが今後どこまで続くかは、アメリカの経済状況次第じゃないかなと思いますね」と話し、話題を締めくくりました。