ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。
6月19日(水)のテーマは、「トランプが勝つのはわかっていても投票しない? アメリカ大統領選を前にZ世代は何を迷っている?」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、大統領選に投票すること・しないことへの意味について考えました。
投票のシステムそのものを疑問視?
アメリカの大統領選まであと5ヵ月を切りました。前回の放送では、トランプ前大統領が刑事事件で有罪になったニュースを取り上げ、ラボメンバーたちが意見を交わしました。
しかし、大統領選にはほとんど影響しないどころか、今回はトランプ氏の勝利が濃厚だとラボメンバーたちは予測しています。その理由を聞いてみました。
ケンジュ:間違いなくトランプが勝つよ。彼らが何かすごい魔術を使わない限りはね。または、選挙に干渉するとかしなければ。
ミクア:私もトランプが勝つ確率がすごく高いと思う。
シェリー:これは日本にいたときにみんなに聞かれたんだけど、民主党はなぜバイデンなの? 他に誰かいないの?
メアリー:まったくわからない。でも、正直に言うとバイデンはいい“あやつり人形”だからかもね。
ケンジュ:うん。たしかにあやつり人形だよね。
シェリー:だけど、みんなは4年前にトランプが勝たないようにバイデンに投票したでしょう? そのことは覚えている?
ケンジュ:4年前は、パパから「バイデンに投票するように」って言われたから投票した。だけど、今回はもう誰にも投票しないつもり。選択肢がふたつとも悪すぎるもの。
ノエ:ちょっと待って。投票するかしないかについて、もっと話さないといけないと思うんだ。なぜ投票しないという選択肢があるのか、僕にはわからないよ。極端に言うと「殺人者」と「泥棒」の戦いみたいなものだと思うんだ。
もし投票しなかったら、殺人者が当選する可能性が高くなるし、泥棒に投票したら泥棒を選んだってことになるけど、殺人者よりは泥棒のほうがいいからってことだよ。わかる? 悪の度合いにも違いがあるよ。「なぜ殺人者に当選のチャンスを与えるの?」という例え話なんだけど。
ケンジュ:最悪の悪が、より小さい悪に勝つのを避けたいから、小さい悪のほうを選ぶということだよね。でも、僕が考えているのは、投票することで、たとえ小さい悪を選んだとしても、結局“悪を生むシステム”を支持していることになるんじゃない?
メアリー:まあ、このシステム自体がめちゃくちゃだからね。だけど、私たちはそれでも、このシステムのなかで生きていかなきゃならない。悪と悪との戦いだったら、善はどこにあるの? この世界にポジティブなものはないの?
「投票しない」選択を取ろうとするケンジュと「同じ悪でもマシなほうに投票すべき」という考えを持つノエがぶつかり合い、議論が白熱しました。
Z世代専門家のシェリーは「(トランプとバイデン)2人がもはやそれほどの悪人と思われているんですね。やはり、バイデン大統領がイスラエルのガザ虐殺を許してしまっているというのが、本当に大きな影を落としています」と分析しました。
投票の結果で人生が一変する人々がいる
バイデン氏に勝利をもたらした若者が投票しなければ、結果的にトランプ氏が勝つ可能性は高くなります。それでも、投票することが悪を生むシステムに、ケンジュは加担したくないと考えています。
大統領選の投票について「善はいったいどこにあるの?」と問いかけるメアリーに、ケンジュははたして何と答えるのでしょうか?
ケンジュ:善は僕たち自身だよ。つまり、コミュニティの人々が善だと思う。僕たちは自分たちを信じて、私たち自身に投票するべきなんだよ。善を成し遂げ、変化をもたらすことができるのは僕たち自身だ。だから、単に企業に買収されているだけの、この2人の候補者を信頼する必要なんてないんだ。
メアリー:たしかにその通りだと思うよ。でも、それだけだと何もしないことになってしまう。信じるって具体的に何を意味するのか、私にはわからない。そんな人たちに投票するのはバカバカしいと思うけど、他に何ができるのかもわからないよ。このシステムのなかにいる限りはね。
みんな、私たちと同じように今年は投票したくないと思っている。もしかしたら、投票しないことにも何かメッセージがあるのかもしれない。だけど、そのメッセージは決して伝わらない。結局、またトランプが出てくる。状況は私たちにとってさらに悪くなるでしょうね。
ミクア:投票しないことが私たちを助けてくれることはない。むしろ、私たちに害を及ぼす可能性のほうが高いんだよね。
ケンジュ:それはわかっているよ。投票しないことは、実質的にトランプに投票するのと同じことになるんだ。そして、投票しないことで実際には何も変わらない。でも、僕にとって投票しないと決めた理由は「モラルの問題」なんだよ。自分の信念とか、そういうことなんだ。
ノエ:たださ、投票しないことは単に自分だけの問題じゃないんだよ。自分たちだけじゃなくて、もっと影響を受ける人たちについて考えるべきだと思うんだ。たとえば、メキシコからの移民の家族なんかは、選挙の結果次第で命の危険にさらされる可能性もある。
僕たちは、たとえばニューヨークの税金がちょっと上がるとか下がるとか、そのくらいだよね。トランプが選ばれたからといって、家族の安全が脅かされるのを恐れたりする必要はないでしょう?
善の立場に立つ私たちが新しい社会を作るべき、という気持ちはわかりますが、投票しないことは何の意味も生まれません。それどころか、トランプ氏が有利になり自分たちの害になりうるのです。
それでも、自分のモラルを守るために投票をやめる考えを示したケンジュに対し、ノエは「もっと影響を受ける人たちについて考えるべき」と忠告しました。この話し合いについて、シェリーは「親パレスチナへの抗議運動と同じように、特権がない人のことを自分ごととして考えられる、この世代ならではだと思います」と補足。
来たる11月の大統領選にて、ラボメンバーたちは投票するのでしょうか? それとも、多くが棄権して、彼らが言うようにトランプ氏が当選するのでしょうか?
シェリーは「揺れ動く彼らの気持ちが、そのまま大統領選と未来のアメリカ、そして私たちみんなが住む世界の未来にも影響することだけは確かです」と話し、話題を締めくくりました。