interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
2月23日(金・祝)のテーマは、「日本より激しい学歴競争〜アメリカZ世代を悩ませる“学歴インフレ”とは?」。「NY Future Lab」のメンバーが、経済的インフレと同時に起きている「学歴インフレ」について語り合いました。
学歴のインフレが加速するのはなぜ?
インフレ対策で世界中が頭を抱える昨今。アメリカでは急激な値上がりこそは収束したものの、すべての商品・サービスの値段が高止まりしている状況です。中間層以下の賃金はそれほど上がっておらず、インフレに追いついていないため生活が苦しくなっています。
そうしたなか、経済の将来を担うZ世代を悩ませているのが「学歴インフレ」です。学歴がインフレするとは、どんな状態を示すのでしょうか? ラボメンバーに話を聞きました。
ミクア:ニューヨークで生活するためには、1人暮らしでも6桁の年収(日本円で1,500万円)以上なければ、本当にいい生活を送れないんだよね。家賃や食費などを支払い、外食を楽しんだりするにはそのくらい必要。「よし、年収1,500万円稼ぐために学校に行こう!」ということになる。でもそれも4年生の大学だけでなく、今は大学院の修士号も必要になっている。
ノエ:そうそう、僕はそれがなかったんだよね。
ミクア:今って「本当の人生は30歳で始まる」とか言うでしょう? その理由がわかるよね。必要な学位を得て、然るべきキャリアを始められるのは30歳くらいからということだよ。すごい時間がかかるということ。
ノエ:すべてがインフレしていて、かつての100ドルは20ドルくらいの価値しかないって言うよね。昔の大学院卒の修士号は、今の4大卒の学士号くらいの価値になっている。これもインフレだよ。
ケンジュ:前の世代では家賃もはるかに安かったし、家もずっと買いやすかった。そして、普通の生活を送ることができた。高卒でも大卒でも、ある程度高収入の仕事を見つけることもできたから。必要な分を支払ったあとでも、好きなことを楽しめた。でも今は、僕たちの世代にはずっと大きな経済的圧力がかかっていると思う。
何もかもが高くなった今、アメリカでは必要な収入を得るためにはさらなる学歴が求められます。しかも、これまでは高卒で得られた職が大卒を要求したり、かつての大卒の仕事が今は大学院卒の仕事になったりしています。
モデレーターでZ世代評論家のシェリーは「(そうなった背景には)今は大卒や大学院卒が増えたというのもあります。あと、アメリカにはもともと終身雇用がないんですね。転職してもっと給料のいい仕事に就きたいから、常に仕事を探しているわけです」とコメント。転職競争の激化によって企業は学歴でふるいにかけることになり、そのため学歴インフレが起こっているのではないかと説明しました。
Z世代がインフルエンサーに憧れる理由
数字を見るとアメリカは失業率が低いですが、人手が足りないのは小売、サービス、介護といった低賃金や非正規の仕事です。高学歴と低学歴の貧富の差が開くなか、Z世代にはまったく違う道を選ぼうとする人も出てきます。
ラボメンバーが注目するのは、世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物「インフルエンサー」の存在。この詳細を聞きました。
シャンシャン:たしかにより高い学位を持つことが、よりよい人生や質の高い生活を送るための1つの道だよね。だけどさ、「それってどうなの!」と思ってしまうのはインフルエンサーの存在なんだよ。
インフルエンサーって20歳そこそこで家を買ったりもしているけれど、学位さえ持っていないよね。まだ高校生のインフルエンサーもいる。私は一生懸命働きながら、どうしたら将来よりよい生活ができるのかを考えているのに。彼らにはまったく敵わないからね。
ミクア:私もフォーブスのインフルエンサー富裕層リスト、彼らがどれだけ稼いでいるか書いてあるやつを見たよ。「うわーっ」って思った。私がTikTokでフォローしている女の子は、始めて2年も経たないのに年収6億円を稼いでいる。TikTokだけでだよ。
彼女は学士号も持っているけど、そんなの必要ないよね。今すぐ6億も稼げるんだから。本当にクレイジーだよね。
メアリー:NPC配信(※)ってのもあるよね。インフルエンサーがTikTokでライブ配信すると、ファンがステッカーをプレゼントしてくれるやつ。たとえばバラのステッカーを送ると、「バラの匂い、すごくいいね!」って返事がくる。ただそれだけ。でも、そのステッカーは課金されるからね。
※ゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター/モブキャラ)のように、「話しかけられたらお決まりのフレーズを返す」といった、視聴者のアクションに対して単調な反応を返すだけのライブ配信。
ケンジュ:でも、インターネットはいいと思うよ。私たちの世代に平等なチャンスをくれたじゃない。
メアリー:ただこうなると、ストライキをしている人たちにすごく共感するんだよね。たとえば自動車メーカーのCEOの給与は、従業員の給与の40倍とかでしょう。従業員の給与はあまり上がっていないのに。私はそういうストライキを応援するし、彼らの給与が上がることで、ほかのさまざまな業態の労働者の給与も上がって欲しいと思うよ。
TikTokインフルエンサーの収入トップの年収は26億円。それだけでも驚きですが、フォロワー1億5千万人を持つインフルエンサーの年齢はなんと19歳です。その現実を知ると、時間とお金がかかる学歴を得るより、インフルエンサーになったほうがいいのではないかという考えが浮かぶのも理解できます。
調査によると、アメリカZ世代の約6割が「できればインフルエンサーになりたい」と望んでいます。インフルエンサーになりたい理由は「名声とお金」がほとんどですが、自分で自分の収入をコントロールしたいフリーランスや起業家的な発想の人も少なくありません。
その背景には、どれだけ頑張って職を得ても、将来が不安定という現状が考えられます。安定を望んでIT系やコンサルタント職に就いたとしても、企業都合による解雇が相次いでいるからです。
「昔は業績が悪いから解雇したんですけど、今は株価や収益を上げたいから、人件費をカットしたいからという理由で解雇するんですよ。そうした会社の都合で解雇されたらたまったものではないですよね。そんなことをされたら、なぜ一生懸命勉強や仕事をしなきゃいけないんだって気持ちにもなりますよね」とシェリーは語ります。
こうした企業への反感も広がることで、ラボメンバーのように労働組合のストライキに同情的な若者も増えています。今年はさらに労組結成やストライキが増えると予想されています。シェリーは「こういった社会の激動が、アメリカから世界へ広がっていると思います。日本にもその流れが来るのではないでしょうか」と話し、話題を締めくくりました。