気候危機への対策の遅れは「人権侵害」…アメリカZ世代は「気候変動問題」をどう捉えるのか?

「気候危機への政府の対策の遅れは『人権侵害』か?」。「NY Future Lab」のメンバーが、アメリカで起こった気候変動訴訟について話し合い、気候変動対策が遅れている理由を分析しました。

「気候危機への政府の対策の遅れは『人権侵害』か?」。「NY Future Lab」のメンバーが、アメリカで起こった気候変動訴訟について話し合い、気候変動対策が遅れている理由を分析しました。

interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。

10月6日(金)のテーマは、「気候危機への政府の対策の遅れは『人権侵害』か?」。「NY Future Lab」のメンバーが、アメリカで起こった気候変動訴訟について話し合い、気候変動対策が遅れている理由を分析しました。

アメリカ初の気候変動訴訟に注目

2023年は世界的に記録的な高温となり、7月は史上最も暑い月でした。アメリカ南部や西部の異常高温、マウイの山火事、リビアの大洪水など、未曾有の自然災害が続くなか、国連のグテーレス事務総長は「もはや地球温暖化ではなく、地球沸騰化の時代が到来した」と警告。現在は気候変動ではなく、「気候危機」や「気候非常事態」といった言葉を耳にするようになっています。

9月17日、アメリカ・ニューヨーク市中央部では大規模な気候変動対策推進デモがあり、7万5,000人を動員。全米から400以上の環境保護団体とニューヨーク市民が集まり、“脱化石燃料”を訴えました。

石油や石炭、天然ガスといった、地下に埋まっている燃料資源である化石燃料。化石燃料の燃焼は二酸化炭素などの温室効果ガスを排出するため、地球温暖化の原因となっています。

アメリカでは6月、モンタナ州の5歳から22歳の16人の子どもと若者たちが、州政府を「気候危機に対する責任の所在」で訴え、注目を集めました。

若者たちは「モンタナ州政府の憲法では、クリーンで健康的な生活を送ることが保障されているにも関わらず、化石燃料開発を推進することは憲法違反である」と主張。気候変動を争点とした類を見ない裁判は、8月に若者たちの勝訴で決着しました。

画期的な判決がアメリカ国内で話題を呼びましたが、ラボのZ世代はどんな反応を見せたのでしょうか。

メアリー:「今さら信じられない」って感じ。だってこの会話、何年も続いているでしょう?グレタ・トゥーンベリがめっちゃ有名になったのはそのおかげじゃない? でも、結局何も進展しなかった感じがする。みんな、「子どもが気候変動のことを話してる!」って驚いていたけれど、結局それっきりになっているよね。

ノエ:それでも若い人たちがこうやって政治に参加して、変化を起こしているのは希望を感じられるよ。特に日本みたいな国だと、若い人の多くは政治や国の未来に無関心だから。

シャンシャン:裁判でこういう判断が下されたのは、おそらく、気候変動をもう無視できなくなったからじゃない? 実際、今年は9月になってもまだまだ暑いし。気候変動の危機に取り組む必要があることを、多くの人が意識するようになったからでは?

ノエ:そうだよね。ニューヨークや僕がいるパリでも、嵐が10年前と比べてずっと激しくなっている。しかも、嵐は突然やってきて予測不能だもの。どうしようもない感じだよね。でも、偶然に起こっているわけではない。みんなが「気候変動問題が手に負えなくなっている」と感じているんだよ。

シャンシャン:これって、気候変動対策を支持する人たちが、初めて州政府に勝った訴訟だよね? つまり、気候変動と戦うための助けになる非常に大きな一歩でしょう。そして、将来的にほかの裁判でもこのケースが前例として使われるかもしれない。

これをきっかけに、企業や政府、州の規制、国全体がポジティブな方向に前進し始めることを願っているけれど。

ヒカル:だけど、州は上級裁判所に控訴するんでしょう? ということは、完全に裁判が終わって結果がはっきりするまでは、何も進まないってことだよね? だから、最終結果が出るまで、僕たちはしっかり見張る必要があると思うよ。

大人たちが目を逸らし続けてきた気候変動問題に対し、ラボのメンバーの反応は「今さら」と冷ややか。一方で、子どもたちのアクションが国を動かしたことに、希望を見出しているようです。

モデレーターでZ世代評論家のシェリーは、「子どもたちは『大人がやらないから自分たちでやります』って感じですよ」と補足しました。

抗議デモの高まりは政府や企業への“不信感”によるもの

ヨーロッパでは9月、ポルトガルの11歳から24歳のZ世代の若者6名が、EU加盟国ほか英国、スイスなどを含む欧州32ヵ国を相手に「気候変動への対応を失敗した」として欧州人権裁判所に訴えました。

アメリカの裁判との共通点は、気候変動対策を住民が健康で幸せに生きるための「人権擁護」の一環として捉えていること。つまり、気候危機への対策の遅れは、人種やジェンダー差別、セクハラや性犯罪などと同様の「人権侵害」だという考え方です。

ラボのメンバーたちは、これまでにも気候変動問題についてたくさんの意見を交わしています。8月の座談会では、利益優先の企業を規制しきれない政府に対して、怒りや無力感を抱いていると話していました。

「気候変動の責任は政府が取るべき」という主張を、ラボのメンバーはどう感じているのでしょうか?

ノエ:たぶん、特に石油とか化学関連の企業に対して、もっと制裁が必要なんじゃないかな? 廃棄物や排出関連で考えると、環境にネガティブな影響を与える大半はごく一部の大企業が生み出していると思うんだよね。

ミクア:環境や私たちのためのベストな方法が何なのかはよくわからないけれど、少なくとも政府はそれを真剣に受け止めていないように見える。それっておそらく、政府の利益に関係しているんじゃないかな?

だってさ、今はもう夏が暑すぎるし、「何かが明らかにおかしい」ってわかるでしょ? 政府が今やっている方法が、健康にもよくないってみんなが感じているよね。だから、政府は何かしらの理由でそれを無視しているようにも感じる。おそらく、お金のためなんじゃないかな。

ノエ:絶対にお金のためだよね。詳しくはわからないけど。明らかに気候変動に悪影響を及ぼしていても、それで大企業が大きな利益を得ていることは間違いない。

そして彼らはロビー活動などを通じて、政治家のポケットに大金を流し込んでいるんだ。状況が変わらないようにしたり、新しい法律や規制が導入されないように、膨大な資金を使っているんだよ。

ミクア:何かを変えるっていうのは本当に難しいと思う。たとえそれが地球にダメージを与えて、私たちにもよくないことだってわかっていても。それでお金を儲けている人にとっては、それがベストだから気にしない。長いことこんな感じでやってきたからね。彼らがマジに取り組むのを願ってはいるけれど。

ノエ:こうなると、人口の半分以上の人々が実際に命を落とすとか、富裕層がひどい影響を受けて文句を言い始めないと、政治家や政府は本気で取り組まないのでは? 今の段階だと、金持ちはほかの州や国に引っ越したり、エアコンとかにお金を注ぎ込めば、なんとか凌げているでしょう?

ラボのZ世代は、政府と大企業との既得権益が気候変動対策を遅らせていると指摘しました。アメリカでは、いまだトランプ氏を支持する共和党が、気候変動が人為的なものであると認めていません。一方で、民主党のバイデン政権も巨額の再エネ投資をしてはいながらも、いまだに化石燃料に巨額の投資をしています。

2023年1月には、ハーバード大学の調査によって、企業の隠蔽が明るみとなりました。石油最大手のエクソンは、社内の科学者が1970年時点で今の気候変動を予測していながらも、その情報を公開していませんでした。政府も企業も信頼できない状況が、若いZ世代を訴訟や抗議活動に駆り立てているのは間違いありません。

シェリーは「(Z世代は)すごく広く見ていますよ。アメリカのこともそうですが、リビアなどさまざまな国に人が住めなくなってきているから。そういったこともニュースでよく知っています。アメリカや日本をはじめとする、二酸化炭素排出量が多い国が危機感を持って行動すべきです」と締めくくりました。