横行する“保守派によるトランスジェンダー差別” 「本当に馬鹿げている」アメリカZ世代に広がる怒りと悲しみ

「保守派によるトランスジェンダー差別について」。アメリカで現在起こっている、保守派による差別の実態について「NY Future Lab」のメンバーが話し合いました。

「保守派によるトランスジェンダー差別について」。アメリカで現在起こっている、保守派による差別の実態について「NY Future Lab」のメンバーが話し合いました。

interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。

6月16日(金)のテーマは、「保守派によるトランスジェンダー差別について」。アメリカで現在起こっている、保守派による差別の実態について「NY Future Lab」のメンバーが話し合いました。

保守派によるトランスジェンダー差別の実態

6月はLGBTQプライド月間。毎日のようにLGBTQの文化を祝い、権利向上を訴えるイベントがおこなわれています。ニューヨークで26日(現地時間)におこなわれるプライドパレードには約200万人もの人が参加し、大企業もこぞって参加して連帯・サポートをアピールしています。

アメリカでは同性婚も合法化され、Z世代の約2割が自身をLGBTQだと自覚していることから、一見ダイバーシティ(多様性)を謳歌しているように見えますが、実はここ最近、保守派によるトランスジェンダーに対する反感が高まっています。

なかでも印象的な出来事は、今年4月に発生し、現在まで続いている「バドライト(バドワイザーのライトビール)不買運動」。バドライトは何百人ものインフルエンサーを使ってSNSマーケティングをしており、そのなかの1人として、とある有名トランスジェンダーとコラボレーションをしました。

自身の顔写真が入ったオリジナルデザイン缶のビールをプレゼントされた彼女は、それをInstagramに投稿したところ大炎上。大規模な不買運動に発展し、バドライトの売り上げは激減。株価も下がり、さらには工場の爆破予告まで出る始末になりました。

ラボのメンバーはこの騒動をどう見ていたのでしょうか。

シャンシャン:正直、驚いた。アメリカはもっとオープンな国だと思っていたからね。トランスジェンダーが広告をしているからボイコットって、ちょっと馬鹿げている。コロナ禍が一番ひどかったときに、コロナビールの不買運動が起きたことを思い出した。それと同じような感情的な理由で、トランスジェンダーをサポートしているブランドのビールを買わないと言っているんだと思う。

ミクア:私も馬鹿げていると思う。ただニューヨークに住んでいると、他にもたくさんの州があって、それぞれの州が全然違うということを忘れてしまう。政治的にも社会的にも、考え方が本当に全く違うんだよね。

メアリー:それと、もう1つ。バドワイザーがこの騒動に対して釈明したときに、どっちつかずの中途半端な謝り方をしたので、LGBTQ擁護派も反対派も、両方を怒らせてしまったんだよね。これでは何の意味もないという、クレイジーな結果になってしまった。

ミクア:今、LGBTQとコラボレーションしたり、彼らをサポートしたりすることで、利益を得ようという会社はたくさんあるけれど、そういうなかには純粋にLGBTQ運動に協力しようという会社もあれば、ただ(彼らを利用して)人の関心を得たいだけの会社もある。

今回のバドワイザーの反応を見ると、どう考えても純粋にサポートしているとは思えないよね。もし純粋にサポートをする意思があるなら、「トランスジェンダーとコラボしたことは間違っていない。このブランドはLGBTQを代表しているんだ」と、改めて主張すべき。

でも、何も悪いことをしていないのに謝ってしまった。これではフェアじゃないからボイコットされても仕方がない。バドライトみたいな大きな会社だからこそ、自分たちが置かれている立場に責任を持ってほしかった。誰かを利用して儲けようというときは、お金や利益だけが全てと考えるべきではないと思う。

「LGBTQをサポートするのか、しないのか」について、どっちつかずで曖昧な謝罪をしてしまったことで、LGBTQ擁護派・反対派の両方から批判される結果となったバドライト。

モデレーターでZ世代評論家のシェリーは「人権問題に限らずですが、環境問題なども含めて、Z世代は企業が見せかけだけのサポートや態度を取ることを非常に嫌います」とコメント。企業イメージを向上させるためだけにおこなわれる上辺のみのサポートは見抜かれ、若年層の支持を得づらいと話しました。

「確実に投票してくれる宗教右派」に、政治家が便乗

トランスジェンダーに対して起こっている反感は、保守派議員による責任も大きいと話すシェリー。保守派が強い20の州では「性別違和を持つ未成年への医療を禁ずる」など、トランスジェンダーやLGBTQの権利を制限する法律が次々と成立しています。

こうした一連の動きは「子どもたちを守るため」という名目のもとでおこなわれていますが、これがさらなる反感を煽り、さらなる差別やヘイトクライム(憎悪犯罪)へとつながっています。これについて、メアリーから怒りを伴った意見が出ました。

メアリー:本当に腹が立つのは、LGBTQに強く反対する福音派のキリスト教徒が、人口に占める割合はとても少ないのに、(政治的な)力が強いこと。例えば国民の7割は人工妊娠中絶を容認しているのにもかかわらず、福音派の力でその権利は覆されてしまった。理由はもちろん、政治家が彼らの票を欲しているから。

トランスジェンダーに関しても同じことが起こっている。特に極右の共和党は、トランスに消えてほしいと思っているとしか思えない。CPACという共和党の大きなイベントでは、有名な極右のコメンテーターが「トランスジェンダーを絶滅させるべきだ」とスピーチで発言して衝撃だった。もうクレイジーとしか思えない。

歴史が繰り返しているとも言える。1970年代のメディアでは、同性愛者に対して今のトランスジェンダーに対するのと同じようなことを言っていた。例えば子どもに対して「同性愛者と話してはいけない。後で何をされるかわからないから」と、ひどい言い方をしていた。

特に最悪なのは、結局そういうことが全部、企業や政治家がお金を稼ぐために使われているということ。例えば少し前、M&Mチョコレートが女性だけのキャラのチョコが袋に入ったバージョンを発売した。「ガールパワー」のメッセージを出していたのだけれど、これが気に入らない極右の間で大炎上した。

そこで極右の保守メディア「デイリー・ワイヤー」は、独自のチョコレートブランド(※1)を作り、保守派の自由を守るための商品と銘打って、すごく高い値段で売り出した。女性の権利もLGBTQの権利にも反対し、それを守ろうとする「WOKE」(※2)と呼ばれる人々にも反対している。こういう人の感情を利用して、政治などの資金を稼ぐのは、本当に詐欺まがいの商法だと思う。

※1「独自のチョコレートブランド」…「デイリー・ワイヤー」は3枚で50ドル(約7,000円)[k1] のチョコレートバーを発売。パッケージに「She/Her」「He/Him」のジェンダー代名詞を印字し、「性別は2つしかない」というメッセージをアピールし、多様な性のあり方に反発している。

※2「WOKE」…社会問題に目を向け、差別や不正などを問題視しアクションを起こす人。「wake」(目覚める)の過去形「woke」が形容詞的に使われているスラング。

キリスト教福音派は人口の14パーセント程度と数は少ないですが、確実に投票してくれるので政治家にとってはありがたい存在です。そのためトランプ元大統領やフロリダのデサンティス知事は、福音派が支持する「人工中絶反対」や「LGBTQの権利縮小」を強く打ち出しています。

「日本でも同性婚合法化に賛成する人が過半数を超えているのに、法整備が進まないのは宗教右派の影響が大きいという話がありますよね。そうした意味では、アメリカと日本は似ています」と話すシェリー。

少数派の権利を保護することが、多数派を脅かすことにはつながらないと主張し、議論を重ねていく必要があるとコメントして話題を締めくくりました。