メンタルに及ぼす悪影響、ある日暴力として爆発…アメリカで広がる「有害な男らしさ」という考えとは?

interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。

6月2日(金)のテーマは、「“有害な男らしさ”について」。「NY Future Lab」のメンバーが、これまでとこれからの「男らしさ」や「男性性」について語り合いました。

「有害な男らしさ」とは?

「男は強くなければいけない」「男は社会的に成功していなければならない」など、これまでは「男性たるもの、こうあるべし」という“望ましい男性像”がありました。しかし現在のアメリカでは、こうした従来の「男らしさ」や「男らしくあるべき」という社会的プレッシャーなどが「有害な男らしさ(Toxic Masculinity)」と呼ばれるようになり、話題になっています。

「有害な男らしさ」とは、一体何なのでしょうか? 何が「有害」と呼ばれる理由なのでしょうか? ラボのメンバーに聞いてみました。

ノエ:有害な男らしさって、要するに伝統的な「男らしさ」が、有害なもの・ネガティブなものとして現れているという意味かな。「男らしい男は、たくさんの女と寝て、その数を数えるものだ」みたいな。

メアリー:私が「有害な男らしさ」と聞いて思い浮かべるのは、「男は感情をあらわにしてはいけない」と教わること。男性は泣いたり感情的になったりするのを許されない。なぜならそれは女のやることで、良くないことだからって言われる。その考えがとても有害だと思う。感情を溜め込んでいると、ある日それが外に向かって爆発してしまうかもしれないし。

ノエ:日本でもアメリカでもヨーロッパでも、男らしさの意味が変わってきているのではないかな? 例えばファッションショーでも、男性が穿くキルトスカートが登場しているよね。あと、僕は最近メイクを始めたんだけど、けっこう楽しいよ。なんだか気分がいいんだ。そういうのは普通にいいことだという、リベラル的な見方に影響されているからかな。

シャンシャン:これは一度だけあったことなんだけど、元彼が生理用品を買ってきてくれたことがあったの。これって、すごく勇気がいることだと思った。「生理用品は女性が買うべきもの」と考えられているでしょう? その常識を破って買ってきてくれて、本当に素敵だと思った。有害な男らしさとは逆の行為よね。

メンタルヘルスの専門家によると「有害な男らしさ」の考え方とは、「男は強く、攻撃的で、感情に飲まれてはいけない」「女性のように感情を表したり、助けを求めたり、家庭的なことをしてはいけない」「お金と権力、地位、影響力がある男だけが価値がある」というもの。こうした考え方がメンタルに及ぼす悪影響が懸念されています。

「男らしくありなさい」「それくらい我慢しなさい」とか言われて育てられると、感情をうまく表現できなくなるだけでなく、「人に助けを求めるのは男らしくない」という考えになってしまい、他人に対して共感や同情心を持てなくなってしまいます。そうして溜め込んだ感情が、ある日暴力として爆発してしまうことも……。

モデレーターでZ世代評論家のシェリーは「こうした価値観は、メンタルケアを受ける際の障害にもなります」とコメントし、男性が困ったときに必要な医療的ケアにリーチできない要因にもなり得ると話しました。

旧来の「男らしさ」のイメージがSNSで増幅している?

男性がメイクをしてもいい、スカートを穿いてもいい……など、「男らしさ」の定義も移り変わりゆくある現在。しかしメアリーは、むしろインターネットの影響で「有害な男らしさ」の考え方が蔓延しているのでは? と議題に挙げます。

メアリー:私は有害な男らしさは、ある意味で悪い方向に進んでいると思う。例えば「男は感情を表さず、ストイックであれ」という考え方があるよね。インターネットでは男に対して「感情を表してもいいんだよ」と説く代わりに、「さあ、朝起きてジムに行き、嫌なことは全部忘れろ。ベストな自分になるために、一生懸命仕事をし、お金を稼げ。それが男らしい男の姿だ」みたいに呼びかけた内容のコンテンツがよくあるよね。若者がこういうのに影響されるのが心配。

ケンジュ:そうかな。ストイックという部分だけ見れば、決して悪いことではないと思うけどね。むしろ良いことではないかな。ストイックさというのは、もっと自分をコントロールするという意味だよ。感情を押し殺せというわけではないんだ。

自分の感情を知り、それにコントロールされないようにする。もし誰かが抑え込んでいた感情を、他の人に対してネガティブな形でぶつけたら、それはストイックではないということ。

ノエ:確かに、自分の感情をやみくもにぶつけるのは良いことではないと思うよ。でもストイックさを「ただ我慢する」という意味で使うとしたら、それは「有害な男らしさ」になるんじゃないかな。

何かメンタルの問題を抱えていたり、ただ悲しかったりしたときに、自分でそれを理解したり誰かに相談したりして解決しようとせず、「ただ我慢する」というのは良くないことだと思う。

ケンジュ:でも我慢しなければならないことも、たくさんあるよね。やりたくないけれど、それを我慢してやらなければ、他に差をつけられないとか。

ノエ:それでも、ただ我慢するだけというのは良くないよ。例えば女性は、感情を扱うのがうまいと言われているよね。

メアリー:女性は何か問題があったとき、親友同士がお互いを頼りあう。でも男は同じように問題が起きても、友達同士で深く話し合うとか、そういうことがないんじゃないかな?

ケンジュ:確かに、それは「有害」かもね。

話を聞いたCartoonは「アメリカとはまた違うかもしれませんが、日本社会も別の形で『男らしさ』へのこだわりが根強い気がしますね。例えば子どもが生まれたとき、男の子だったら『(男で)よかったね』と声をかけたりしますし、そういう社会の土壌がある気がします」とコメント。

シェリーは「リベラル的な人が『男らしさ』への認識を変えつつある一方で、旧来の『男らしさ』にこだわる層も多いです。SNSでも高級車や高級品を持ち『いかにも成功した人』というような『旧来の男らしさ』を良く見せるイメージの写真が溢れていますよね。そうした投稿によって、旧来の『男らしさ』のイメージが増幅されています」と話し、SNSと向き合う時間の多い10代への影響を危惧します。

「有害な男らしさ」の考え方は、性犯罪やDVとの関連があると言われているほか、アメリカで増え続ける銃撃事件にも関係があるという考えが強まっています(銃を持つ人の6割が男性で、銃撃犯はほぼ100パーセント男性)。シェリーは「一方で女性の銃所持者は2割程度。銃は『男らしさ』の象徴という考え方があるようです」と付け足しました。

最後にシェリーは「ジェンダーに関する考え方が複雑化しているので、悩みは尽きないものだと思いますが、いずれにしても悩みを自分だけで抱え込むのは良くないことですよね」とコメント。Cartoonも「悩みを打ち明けやすい社会にしていかなければならないですね」と同意し、話題を締めくくりました。