ニューヨークに誕生した文化施設「Culture Lab」 さまざまな世代のアーティストから支持される理由とは?

「ニューヨークに誕生した文化施設『Culture Lab』について」。ニューヨークのコミュニティ拠点にもなっている新たな文化施設を紹介しました。

「ニューヨークに誕生した文化施設『Culture Lab』について」。ニューヨークのコミュニティ拠点にもなっている新たな文化施設を紹介しました。

interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。

1月27日(金)のテーマは、「ニューヨークに誕生した文化施設『Culture Lab』について」。ニューヨークのコミュニティ拠点にもなっている新たな文化施設を紹介しました。

2020年オープンの新たな文化施設「Culture Lab」

2020年にオープンしたばかりの「Culture Lab」は、さまざまな世代のアーティストから支持されている文化施設。マンハッタンの中心部から地下鉄で1駅、イーストリバーを渡ったクイーンズ区のロングアイランド・シティに位置します。

この場所は20年ほど前までは、工場や倉庫しかないウォーターフロントエリアでしたが、再開発で高層マンションが立ち並ぶ人気の場所となりました。「Culture Lab」はその一角にある、巨大な倉庫の建物をそのまま改造した建物の造りになっています。

なぜ、こうした文化施設をオープンするに至ったのかについて、エグゼクティブ・ディレクターで創立者のエッジョー・ウィーラーさんと、アーティスティック・ディレクターのテス・ハウサムさんに、モデレーターでZ世代評論家のシェリーがインタビューを行いました。

アートと文化の包括的な非営利団体

「Culture Lab」は、クイーンズ区西部のアートと文化の包括的な非営利団体となるために作られました。学校や他のアート団体など、多くの地元の組織もこの場所を使用できます。カルチャーラボがある1000平方メートルの巨大な建物は、プラスチック製造企業・プラクセルから無償で提供されたものだとエッジョーさんは話します。

エッジョー:プラクセルは近隣に多くの工場や倉庫を持っていますから、コミュニティに利益を還元するという理由で寄付してくれたんです。その条件が、コミュニティ全ての人のための施設を作るということでした。どんなアーティストでも、僕と同じように「もし巨大な建物の中に、アート・ギャラリーや劇場、リハーサルスタジオなどが同居していたら、どんなに素晴らしいだろう」と思っているのではないでしょうか。そうすれば、いちいちお金を払って借りる必要はないですからね。

エッジョーさんは当初、そうした場所を求めて空きビルや空き店舗を探し回り、借り手が見つかるまでの間、ポップアップギャラリーとして使用させてもらうように働きかけていました。そうした活動を1年ほど続けているなかで、プラクセルから「自社の倉庫を使用してもいい」という申し出があったそう。エッジョーさんは「この広々としたスペースは、どんなアーティストにとっても夢のような、本当に素晴らしいものでした」と振り返ります。

可能な限りアーティストに還元を

「Culture Lab」は2つのギャラリーを持ち、奥の広いギャラリーはシアターとしても使用可能。広大な駐車スペースでは、夏季に無料のアウトドアコンサートも行なわれています。テスさんは「ここはアートをセレブレートする場所。展覧会のオープニングイベントから、ダンスパフォーマンス、演劇、コンサート、あらゆるアートを楽しむことができます」とコメントします。

さらに「Culture Lab」は、ニューヨーク市内の同じような非営利団体の中で、最も多くの文化プログラムをプロデュースしています。エッジョーさんは自分たちのミッションとして「他の非営利団体にスペースやサービスを提供すること」と語り、1年間に20以上の非営利団体に対し、スペースを無償で提供していると明かします。

エッジョー:ニューヨークでアートをやるには多くの壁があります。スペース、お金、そして時間の問題がありますよね?

テス:私たちが目指しているのは、新たなアートを生み出すこと。「フローズン(アナと雪の女王)」のようなブロードウェイミュージカルを作ろうとは思っていませんが、新しいことをやろうとするには、ニューヨークはお金がかかりすぎてアーティストの首を絞めています。

インディーアートには助けが必要なんです。だから「Culture Lab」は、できる限りアーティストからお金を受け取らないようにしています。例えばギャラリーの展示で作品が売れても、そこから手数料を取ることはありません。そんなギャラリーは、ニューヨークには他にないと思います。

テスさんが担当する新進アーティストプログラムでは、売れたチケット代の100パーセントをアーティストに還元しています。運営費や光熱費もかかるため、すべてをフリーコンサートにすることは叶いませんが、可能な限り無料なイベントを行い、アーティストに還元する考えのもとで運営されていると話しました。

こうした取り組みに感銘を受けたCartoonは、「新しいことを生み出すには、お金のことだけを考えてしまうと難しいですもんね」とコメント。シェリーは「やりたいことをやれるのがアートの神髄なので、それが叶えられるというのは大事ですよね」と話しました。

さらにシェリーは日本人アーティストも、このプログラムを利用していると話し「グラミーノミネートのビッグバンド指揮者で作曲家の宮嶋みぎわさんや、作曲家で和太鼓奏者のラーセンみどりさんも、ここのプログラムの卒業生です」と言います。

アートの大切さとは?

“可能な限りアーティストに還元したい”というモットーで運営されている「Culture Lab」ですが、いくら家賃が無料で限られた人数で運営しているとはいえ、施設運営にかかる費用はいったいどこから捻出しているのでしょうか? 政府からの助成金はあるものの、収入源として大きいのは「近隣企業からの寄付」だとエッジョーさんは話します。

エッジョー:不動産会社や電力会社といった大企業からも寄付があります。なぜなら、こうした文化施設は地元にとってメリットがあるからです。率直に言って、こうした文化施設は不動産の価値を上げるんですよ。人々は文化に触れて暮らすことを望みます。遠くまで行かなくても、子供を連れてコンサートやアートを見ることができる、そんな場所に人々は長く住みたがるんです。

もちろん地元に還元するという要素もあります。コミュニティ、地元企業、そして政府もこの施設に価値があると知って、ようやくサポートしてくれるようになってきており、運営を続けられています。

2020年にオープンした「Culture Lab」ですが、コロナ禍が逆に追い風になりました。当時、新型コロナウイルスの感染拡大によって展示会をクローズせざるを得なかったものの、正面ロビーを食糧貯蔵庫にして、地元のレストランや人々が食べ物を寄付し、必要な人が持ち帰れる拠点を作ったことにより、知名度が向上。

さらに十分な広さのアウトドアスペースを持っていたことから、2020年夏にはニューヨークで唯一屋外ライブを行うことができ、人々が施設について知るきっかけになったとエッジョーさんは語りました。

アーティストを育て、世に送り出すための努力を惜しまないエッジョーさんとテスさん。なぜ、そこまでの情熱を持っているのでしょうか。インタビューの最後に、エッジョーさんはアートの大切さについてこう語りました。

エッジョー:コロナがアートの大切さに気づかせてくれたと思います。人間は魂を育んでくれるものが必要ですが、失われるまでそれに気付きません。バーに行って喋る以外に、どこで人と出逢いますか? コンサートや展覧会のオープニング、アーティストのレクチャーやトークなど。それがコミュニティを1つにするんです。

夏に「Culture Lab」の駐車場に来ればわかります。数百人が座ってバンドの音楽に耳を傾けたり、ピクニック用の毛布を広げた家族は子どもと犬と一緒に楽しんでいる。そしてステージの上では素晴らしいバンド、ギャラリーには素晴らしいアートが。これこそが体験です。家でNetflixを観るのもいいですが、人間は外に出て体験しなければ。体験こそが、本当に人々の心を動かすことができるのです。

Culture Lab
5-25 46th Avenue, Long Island City, New York, NY 11101
https://www.culturelablic.org
Twitter: @CultureLabLIC
Instagram: @culturelablic
Photography: シェリーめぐみ