interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
11月25日(金)のテーマは、「ヒップホップの歴史について」。ニューヨークにオープン予定の「ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアム」のエグゼクティブ・ディレクターに、ヒップホップの歴史についてインタビューを行いました。
「ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアム」が2024年オープン
ニューヨークのブロンクスで生まれたヒップホップは、今や世界中で大人気です。そんなニューヨークに2024年のオープンを目指して建設されているのが「ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアム」。DJ、MC、B-Boy, B-Girl、ブレイクダンスなどヒップホップの要素を全て詰め込んだ、世界のヒップホップ・カルチャーの拠点になる予定で、小規模ながらすでにポップアップ展示も始まっています。
来年の2023年は、ヒップホップの誕生から50周年という節目の年でもあります。今回はモデレーターでZ世代評論家のシェリーが、ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアムのエグゼクティブ・ディレクター、ロッキー・ビュキャーノさんにインタビューを行いました。
ヒップホップ誕生50周年を祝う大規模コンサート
「私たちは先週、ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアムがニューヨーク市のパートナーとして、来年2023年のヒップホップ誕生50周年を祝うと発表したばかり」と話すロッキーさん。来年8月11日に、セントラルパークでメガコンサートを開催することを計画しています。
ロッキー:50年前の1973年8月11日、世界で最初のヒップホップ・パーティが開かれました。主催したのはシンディ・キャンベルとクライド・キャンベル。DJ Kool Hercと言った方がわかりやすいかな? 場所はブロンクスのセドウィック・アベニュー1520番地で、団地のレクリエーションセンターで開かれたパーティだった。
そこでB boyたちがブレイクダンスし、Kool Hercが初めてブレイク・ビーツをプレイしました。それが正式なヒップホップの始まりとされていて、それ以来ブロンクスは、ヒップホップ誕生の地として知られるようになったんだよね。
セントラルパークで行われるコンサートについて、ロッキーさんは「50周年を祝うものとしては世界最大規模になる」とコメント。パフォーマーにはシュガーヒル・ギャングのような伝説的なオリジナル・ヒップホップユニットから、現代のスーパースターであるケンドリック・ラマー、カーディ・Bなどにも出演してもらいたいと話しました。
シェリーは「富裕層の多いマンハッタンの隣にあるブロンクスは、黒人やヒスパニック系など、マイノリティが多い。そうした場所から生まれたヒップホップが50年経って、世界で大人気になるって本当にすごいこと」とコメントしました。
「ヒップホップの歴史を教える人がいないことが問題」
常に音楽に囲まれて生きてきたというロッキーさん。どんな子ども時代を過ごしてきたのか聞いてみると「2人の姉の1人はビートルズやローリング・ストーンズを聴いていて、もう1人はテンプテーションズやシュープリームスにハマっていた。おかげで全く違うタイプの音楽を聴いて育つことができたよ」と答え、テレビやラジオの音楽番組は欠かさずチェックしていたといいます。
ロッキー:そして10代のとき、Pete DJ Jonesに出会った。彼は当時ニューヨークで最も人気のあるDJの1人で、両親が自宅の庭で開催したバーベキューのゲストとして呼ばれていたんだ。僕は彼の弟子になり、 やがて人気DJになった。 クラブやコンサートのプロモーターもやったし、Strong City recordsというレーベルも持っていた。パートナーは DJ Jazzy Jay。ヒップホップの黄金時代、1986年頃だよ。
さまざまなトッププロデューサーと仕事をしてきたロッキーさんですが、今回のミュージアム設立の仕事が「最も重要でエキサイティング」だと語ります。シェリーは「ロッキーさんがミュージアムの構想を始めてからここにたどり着くまで、13年かかっているんです」と補足。
なぜそこまでの情熱を持ち、ロッキーさんはミュージアムを設立したいのでしょうか? ロッキーさんは「今の子どもたちにヒップホップの歴史を教える人がいないことが問題なんだ」と、その理由について話します。
ロッキー:私たちは、ヒップホップの歴史が、未来の世代に正しく伝えられていくことが必要だと感じている。特にこのブロンクスの若者たちに、ヒップホップはアートであり、かつて自分たちと同じような10代の若者が作ったものだということを知ってほしい。
ヒップホップは、黒人やヒスパニックの10代が作り上げたものだが、今では白人にもアジア人にも愛され、ヨーロッパでも南アメリカでもそう、みんなヒップホップが大好きなんだ。でも、ヒップホップがどこでどのように生まれたのか、誰が始めたのか、そしてヒップホップが世界のあらゆる場面に大きな影響を与え続けていることを、きちんと教えたい。
政治から音楽・アート、テレビや映画、そしてファッション。ヒップホップの影響を受けていないものはない。アメリカにとっては、これまでで最も重要な文化輸出と言ってもいい。
ブロンクスは不動産ブームの真っただ中で、富裕層向けの高級マンションが次々と建設されています。ところがユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアムは、低中所得者層向けアパートの上層階にオープンする予定。ロッキーさんは「私たちはアートやクリエイティビティが育つための土台になりたいし、ツーリストを呼び込む拠点にもなりたい。そうすればブロンクスの街おこしにもなるからね」と語りました。
2024年のオリンピック競技に「B-Boying(ブレイクダンス)」が取り入れられるなど、ヒップホップから派生したカルチャーの人気は留まるところを知りません。シェリーは「ニューヨークまで行けないけれど、このムーブメントに参加したいという人は、建設資金の募金もしているので、公式サイトをチェックしてみてください」と、締めくくりました。