interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
12月29日(金)のテーマは、「アメリカZ世代と2023年ヒットチャートを振り返り。テイラー・スウィフトは“今年の人”にふさわしい?」。「NY Future Lab」のメンバーが、2023年のヒットソングを振り返り、テイラー・スウィフトが“時の人”として注目されている理由を分析しました。
アメリカの2023年ヒットソングをチェック!
年の瀬も押し迫るなか、今回はアメリカの2023年のヒットチャートに注目。Spotifyが選ぶ、2023年アメリカでもっともストリーミングされたアーティスト(U.S. Most-Streamed Artists)ランキングは、以下になりました。
1.テイラー・スウィフト
2.ドレイク
3.モーガン・ウォーレン
4.ザ・ウィークエンド
5.バッド・バニー
6.21サヴェージ
7.シザ
8.ザック・ブライアン
9.カニエ・ウェスト
10.ペソ・プルマ
アメリカのZ世代で構成されているラボのメンバーは、ランキングの結果にどのような感想を持ったのでしょうか?
ミクア:3位の人知らない。
ノエ:モーガン・ウォーレンって誰? 僕はもう年だから知らないのかな。
ミクア:3位なのに聴いたこともない。
メアリー:カントリー・ミュージックの歌手みたいよ。
ミクア:私、カントリーは聴かない。
メアリー:私も。カントリーは嫌い。
ミクア:でも、なぜ3位に選ばれたのかな。それって誰かが聴いているからでしょう?
メアリー:たぶん、私たちはニューヨークみたいな都会出身だから、カントリーが理解できないのかもね。それよりも、カニエ・ウェストがトップ10に入っていることに驚いているんだけど。
ミクア:そうだよね。彼はもうレジェンドだけど、2023年ってカニエは何かリリースしたの? 何もリリースしなかったと思うけど。
メアリー:わからないけど、カニエはヒトラーを敬愛していて、自分はナチスだと言ったでしょう? そのショックで「ああ、カニエってまだいたんだ」とか思って、彼の古い曲を聴き始めたとか。
シェリー:5位のバッド・バニーはどう?
メアリー:理にかなっていると思う。彼は今年、まさに爆発的な人気でシーンに登場したからね。でも、ドレイクが2位ってちょっと変じゃない?
ミクア:彼は今年たくさんリリースしたからでは?
ノエ:ドレイクの2位は別に驚かないかな。彼は常に少なくともトップ5に入っているよね。
メアリー:それはわかるんだけど、バッド・バニーのほうがドレイクより上になると思っていたんだよね。それから、ザ・ウィークエンドがトップ5に入っているのも面白い。だって、今年彼が自分でプロデュースしたドラマの「アイドル」は、ちょっと痛い内容だったじゃない。
ミクア:でも、ザ・ウィークエンドは本当にビッグだよね。個人的にはそんなにすごいと思わなかったけど、周りはみんなザ・ウィークエンドを聴いていた。だけど、今年は彼の年という感じではなかったよね。
ミクア:1位のテイラー・スウィフト。彼女はいつも何かのトップになっているよね。
メアリー:うん。でも、今年こそテイラー・スウィフトの年じゃない?
ヒットしていたとしても、興味がないアーティストには「誰?」ときっぱり意見を口にするZ世代。そんな彼らにとって、バッド・バニーとドレイクのトップ5入りは妥当と認めています。
カニエ・ウェストは1年前に「自分はナチだ。ヒトラーを敬愛している」と発言をし、アディダスやバレンシアガなどのスポンサーからキャンセルを受け、大勢のファンが離れる出来事がありました。
それ故に、ラボのメンバーはトップ10入りに驚きを示したわけです。Z世代評論家のシェリーは「アメリカではナチもヒトラーも白人至上主義、つまり人種差別の象徴です。Z世代は多人種で構成されていて、ダイバーシティにあふれていますから、絶対にNGということですね」と補足しました。
テイラー・スウィフトは「今年の人」にふさわしい?
1位を獲得したテイラー・スウィフトは、TIME誌が選ぶ2023年の「今年の人」に選ばれました。ミュージシャンが音楽の功績で今年の顔に選ばれたのは、今回が初です。
2022年リリースのアルバム『Midnights』の収録楽曲が、シングルチャートの1位から10位までを独占。2023年3月にスタートしたワールドツアー「Taylor Swift | The Eras Tour」では10億ドル以上の興行収入を記録。地方都市や海外での文化的、経済的な影響を与え、ツアーのコンサート映画もライブ映像としては史上最高の興行収入となりました。
また、スウィフトは過去に収録した楽曲の多くの権利が自身の同意なしに売却されたことを受け、自分の音楽を自分でコントロールするために再録音に踏みきり、過去作の再レコーディングを続けています。テイラーの功績を学ぶ大学の授業も次々と誕生。音楽の世界のみならず、社会的、文化的、そして政治的にも大きな影響を及ぼしています。
ラボのメンバーにとって、TIME誌の「今年の人」選出は妥当なのか聞いてみました。
メアリー:テイラーはツアーで、小さな町や外国にすごい経済効果を生み出したんだよね。コンサートの映画も作ったし。レコードレーベルとも騒動を起こした。彼女は古いアルバムをレコーディングし直して再リリースもしている。彼女の話題がつきなかった感じがする。
ミクア:たしかに、テイラーは常に話題になっていたよね。私は彼女の音楽を聴かないけど。
メアリー:私も聴かない。
ミクア:でも、気持ちはわかるんだ。だって、チケットにプレミアがついて300万円とかになるんだよ。テイラー・スウィフトが好きな人にとっては、それほどの価値があるわけ。だけど、私は彼女のパフォーマンスがそんなにいいとは思えないんだけど。
ノエ:テイラー・スイフトってタイム誌の「今年の人」に選ばれたよね。
シェリー:これって妥当だと思う?
ミクア:個人的には違うと思う。なぜ選ばれたのかもわからないな。でも、人気がすごいというのは理解しているよ。私にはその理由がよくわからないだけ。
メアリー:私はなぜ白人のオーディエンスが彼女に夢中になるのかわかる気がするんだよね。彼女はもう大御所で、キャリアが長いじゃない。だから、ノスタルジア(懐かしさ)の要素があると思うんだ。私の中学時代、彼女はまだカントリーをやっていた記憶があるし。
あとは、テイラーの曲が彼女のプライベートなドラマと絡み合っているところが、みんなが共感する要因だと思う。アーティストとして、本当に画期的なことをやっている部分もあるよね。
ノエ:だけど、「今年の人」に選ぶのには軽すぎない? SNSで見たことの受け売りだけど、今世界で起こっていること、コンゴの虐殺とか、パレスチナとイスラエルの問題とかいろいろあるのに、ただ音楽でめっちゃ人気あるから彼女が「今年の人」っていうのは、なんだか無神経な気もするんだよね。
「今年の人」に選ばれたスウィフトですが、ラボのメンバーにファンはいませんでした。メンバーのなかには、スウィフトは2000年代のノスタルジアを感じさせるアーティストだという意見も。データによると、アメリカのファンの約5割がミレニアム世代(27から42歳)で最多。一方で、Z世代のファンは10パーセント程度。また、人種的な視点では、スウィフトのファンの75パーセントが白人です。
人種的に多様化し、白人の割合が減っているZ世代にとって、スウィフトの音楽がマッチしないと感じる音楽ファンが増えている可能性があります。
また、人権や社会正義に敏感なZ世代のなかには、スウィフトを「今年の人」に選んだTIME誌に対して、異議を唱える人もいました。スウィフトが「今年の人」に選ばれた理由を、TIME誌は以下のように説明しています。
「あまりにも多くの組織が破綻し、分断された世界で、テイラー・スウィフトは国境を越え、光の源となる方法を見つけた。これほど多くの人々を感動させることができる人物は、今の地球上には他にいない」
シェリーは「厳しい言い方になりますが、TIME誌は既得権益ですよね。アメリカの伝統的な白人社会のなかで君臨しているメディアなわけだから」と苦言を呈します。自分の聴きたいものしか興味がないZ世代が大人になっていき、全員一致で好まれるアーティストが出てくるのはどうやら難しい時代となってしまったようです。