interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
12月15日(金)のテーマは、「アメリカZ世代が映画やドラマに求める『レプレゼンテーション』とは?」。「NY Future Lab」のメンバーが、映画やテレビなどエンタメ業界で重要な価値観であるレプレゼンテーションについて語り合いました。
レプレゼンテーションとは何か?
前回の放送では、Z世代がエンタメやファッションにノスタルジア(懐かしさ)を求めている話をお送りしました。今回は、彼らが求めている「レプレゼンテーション=representation」に注目します。
「表現する・描写する」を意味するレプレゼンテーションですが、近年は映画やドラマなどのシーンにおいて、「自分が感情移入できる役の人が登場しているかどうか」という使われ方をしています。
例えば日本人の場合、大河ドラマには自分たちの先祖がたくさん登場するため、感情移入できる人が多いから夢中になる人が多いのではないか、と考えることができます。
一方、ダイバーシティの国アメリカでは、「自分と同じ人種やジェンダーが映画やドラマに登場しているか?」というレプレゼンテーションの有無が、映画やテレビなどのエンタメ業界で重要視されています。
なぜ、レプレゼンテーションが大切なのか。ラボメンバーたちに聞いてみました。
メアリー:まず、白人男性ばかりが主人公だと、本当につまらないでしょう?
ノエ:今のテレビや映画ってレプレゼンテーションはある程度あるけれど、まだ主に映っているのは白人って感じがするけどね。
メアリー:80年代や70年代を振り返ってみてよ。ほとんどの主役は白人男性だったんだよ。それが、だんだん変わってきて、何かを成し遂げようとしている女性が主役の作品ができるようになり、次は白人ではないピープル・オブ・カラーの人が主役になる、みたいな流れで進化してきた。
そして、視聴者にとっても重要なのは、その人物と自分を重ね合わせられること。例えば、強い女性キャラクターを通して「私もあんな風になれるかもしれない」と感じられたりする。
もし、私が70年代や80年代で専業主婦だったとして、その時代の女性がキャリアウーマンになる姿を描いた作品を見れば、「私もあんな風になれるかもしれない」と思えるでしょう。今の自分以上のものになるチャンスが見えてくるんだよね。
ディズニー映画の黒人のプリンセスも同じだよね。白人以外の小さな子がそれを見て、「私だってプリンセスになれる」って思えるから。
ノエ:まだあまり映画やドラマで描かれていない人種がアジア系なんだよね。僕が知っている限りでは、例えば白人の多いコミュニティで育ったアジア系の人たちが、アジア人であることに恥ずかしさを感じているということなんだ。彼らが見るものや聞く話が白人中心だから、より白人っぽくなりたくて、アジア人らしさを捨てようとするんだよね。
もっとも大切なのは、あらゆる人が存在を認められることだよ。映画やテレビで私たちみんなのアイデンティティが認められることが、何よりも大事なんだよね。
あらゆる人種、LGBTQ含むジェンダーのダイバーシティがどれだけ作品に反映されているかどうかが、現在のアメリカのエンタメ業界でいかに大切なのかが伝わってくる話し合いでした。逆に、そうでないと自分のアイデンティティが世の中で認められていないと感じ、自分に自信を持てなくなってしまうおそれがあります。
多様性や包括性を盛り込めばいい話ではない
ディズニーなどの映画会社やテレビ局なども、出演者や内容に多様性を持たせるために努力を重ねています。その背景にあるのは、アメリカ人の多様化が進んでいる現状があります。特に若いZ世代は、人口の半数近くが白人以外の人種であり、2割がLGBTQを自覚しています。
世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関「世界経済フォーラム」では、こうしたレプレゼンテーションの努力を視聴者が採点した調査結果を発表。アメリカのテレビと映画がどれだけダイバーシティを達成しているかをZ世代が採点したところ、100パーセント中58パーセントという結果に。高い評価とは言えない状況は、ラボメンバーたちの会話から窺い知ることができます。
ノエ:アメリカのエンタメは、少なくとも10年前に比べるとずっとダイバーシティを活かすようになっていると思うけどな。
ミクア:私も同感。多様性の表現は確かに増えているし、どんどん進んでいるし、すばらしいことだと思う。ただ、それが自然体でうまく表現されていないこともまだ多い。無理やりな感じ。「とりあえず多様な人が出ていればいい」みたいな。そういうのはちょっと引いてしまうこともある。特定のステレオタイプが強調されすぎると、それも逆に引いちゃうんだよね。
ヒカル:現在のエンタメ業界は、ダイバーシティ&インクルージョン、つまり多様性や包括性をすごく強調しているけど、やりすぎだと思うこともある。たとえば、ダイバーシティの先頭を走っているのはディズニーだと思うけど、 「リトル・マーメイド」で主役の俳優がアフリカン・アメリカンの女性だったじゃない。それが物語の本来のコンセプトと一致していないという意見が出て、インターネット上で大論争になったよね。
ミクア:リトル・マーメイドはあれでいいと思ったよ。でも、別に黒人である必要はなかった気もする。つまり、アフリカン・アメリカンのマーメイドというだけで、物語は特に黒人文化とは関係なかったんだよね。だから、うまいやり方だとは思わなかった。
これからは、もっとその人が属する文化を活かした、新しい役を作る必要があると思う。そういう意味では、ディズニーで素晴らしいと思ったのは「プリンセスと魔法のキス」。プリンセスはアフリカン・アメリカン。舞台がニューオーリンズの物語で、ジャズなどの黒人文化が生かされていて、主役が他の人種では成り立たない内容だった。
ただね、彼女が劇中の70パーセントでカエルに変身した姿のままだったというのがね。「まあ、しょうがないか」という感じかな。
ミクア:今年の映画では「スパイダーマン・アクロス・ザ・スパイダーバース」が、とてもうまくできていたと思う。主役がヒスパニックという設定で、私はヒスパニックではないけれど、映画館でヒスパニックの人たちがすごく反応していた。それを見ていて、「これは文化的な細かいディテールまで心を込めて作られているんだな」ってわかったんだよね。
ダイバーシティのレプレゼンテーションは必須ですが、ステレオタイプが協調されたり、起用されたジェンダーや人種の文化を活かしきれていなかったりする部分がラボメンバーには気になる様子。
企業の努力は感じるものの、あと一歩届かず……ということで、Z世代の採点は58パーセントに至ったわけです。こうしたレプレゼンテーションを求める動きはアメリカだけではなく、イギリスやフランスなど、人種やジェンダーの多様化が進む国から広がり始めています。
日本の場合、主にジェンダーに関わるレプレゼンテーションが求められるのではないかとZ世代評論家のシェリーは推測。「10代の女性は“セーラー服を着ている女の子”といったステレオタイプはあるかもしれません。あとは、LGBTQの描き方もそうです。彼らをおもしろおかしく描くというステレオタイプになっていないか、男性やストレート目線になっていないか、そういった点を注意して見るといいかもしれません」と語ります。
多様化の広がりをみせる昨今の世界情勢。国外を意識したビジネスを考える場合、今後まずますレプレゼンテーションが求められるでしょう。シェリーは「アメリカや海外にモノやサービスを売る日本のグローバル企業は、CMなどのレプレゼンテーションが必要だということを考えているでしょうし、覚えておくといいと思います」と話し、話題を締めくくりました。