interfmで放送中の「sensor」(パーソナリティ:Cartoon)。「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
9月1日(金)のテーマは、「ヒップホップスタイルに代表される『文化の横取り(盗用)』を防ぐには?」。「NY Future Lab」のメンバーが、文化の横取りの問題点や、それを防ぐためにはどうしたらいいのかについて話し合いました。
「文化の横取り(盗用)」とは?
ヒップホップ誕生から50年が経ち、その歴史的背景などについて解説した前回の「NY Future Lab」。日本でもヒップホップミュージックやダンスが人気のため、ドレッドヘアやヒップホップスタイルなどのエッセンスをファッションに取り入れる若年層も少なくありません。
一方で、黒人文化であるヒップホップのファッションを表面的に消費するだけではなく、黒人文化や歴史について知るべきという意見も。アメリカでもたびたび問題になっている「文化の横取り(盗用)」について、何が問題なのかをラボのメンバーに聞きました。
ヒカル:正しいかどうかは分からないけれど、中学生くらいの子が単に外国の文化として興味を持ち、それ(ヒップホップファッションなど)を試したいと思うなら、初めの一歩として普通に受け入れてもいいんじゃないかな。
ノエ:それって、日本でのドレッドヘアの問題ともつながるよね。日本人がドレッドヘアをする場合、「好きだから真似る」というのと「他人の文化を横取りする」というのは紙一重なんだ。
ある文化が好きで「感謝」しているつもりでいても、その文化を作った人がどれほどの闘争や暴力、苦労などを経験しているか、そうした背景を全く理解せずに取り入れることは、ある種の無神経さの表れかもしれないと思う。
メアリー:私も同感。でも日本においては状況が少し違うようにも感じる。これはあくまでも私の主観的な意見だから、間違っているかもしれないけれど。日本においてドレッドヘアをする人、特に日本人の場合は、その髪型がいまだに社会的に差別されているとか、認められていないものだと感じるかもしれない。
でも、ここアメリカでは、キム・カーダシアンのような白人セレブがドレッドヘアやブレードヘアにして、それが注目を浴びることがあり、議論の的となっている。
ここで問題なのは、黒人が長い間やってきたことを白人がやっても、白人だから社会的に非難されずに済むということ。例えば黒人のドレッドヘアはかつて「不潔」とか「髪の手入れを怠っている」などと思われて、仕事に就けないという偏見と結びつけられていた。
でも、白人がやるようになったから「おしゃれ」と評価されている部分がある。でも日本ではそういう考え方はないよね。なぜって、日本は人口に占めるほとんどの人が日本人で構成されていて、他の人種に対する差別や偏見がアメリカのように目立つ形で存在しないか、理解されていないから。
ノエ:なぜそうなるかはわかるけど、それって言い訳にはならないよね?
黒人の伝統的なヘアスタイルであるドレッドヘアやブレードヘアは、今も南部の保守的な州では学校や職場などで差別を受けることがあります。ニューヨークでもこうした問題はたびたび起こっており、2019年にニューヨーク市は「髪型による差別を禁止する」という条例を作りました。
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「文化の横取り(盗用)」とは、ある特定の文化圏の要素を、他の文化圏の人(主に社会的に強い立場にあるマジョリティ)が流用すること・商業的に利用することを指します。アメリカでは白人による黒人差別の歴史があるのにもかかわらず、「おしゃれだから」「かっこいいから」という理由で白人が黒人文化のファッションを取り入れるのは、「文化の横取り(盗用)で、無神経なのでは?」という批判がたびたび起こっています。
モデレーターでZ世代評論家のシェリーも「その文化のことが本当に好きで、『ピュアな気持ちで真似ているのなら問題がないのでは?』という意見や、それに反発するように『歴史を知ろうとしないことに対する言い訳だ』という意見もあります。場合によっては無神経に見られてしまうこともあるかもしれませんね」とコメントしました。
どうすれば無自覚な差別を防げる?
アメリカほどの多民族国家ではないため、日本では人種差別や「文化の横取り(盗用)」問題について、いまいちピンとこない人もいるかもしれません。どうすれば知らないうちに差別的なメッセージを発信してしまったり、「文化の横取り(盗用)」をしたりせずに済むのでしょうか? ラボのメンバーに聞いてみました。
ノエ:こういうトピックについて、日本在住のネイティブ日本人と話したことがあるけど、彼らは根本的なレベルで理解できていないことが多いんだよね。こうした体験を全くしたことがないから仕方がないんだけれど。こういうトピックについて議論するとき、まず必要だと思うのは「自分の考え方はとても日本的だ」と自覚することだと思う。
自分の知識を総動員して理解しようとしても、あまりにも日本と違っているから、自分が知っていることと比較しようとしても、比べられないことのほうが多いんだよ。単純に「日本ではこうだから、きっとアメリカではこうだろう」とは言えないんだ。要するに、学ぼうとする姿勢がとても重要だと思う。
メアリー:心を開くことが大事だよね。
ノエ:日本が地理的、社会的、文化的にも、世界から孤立している側面があることを、もっと理解することがまず必要だと思う。
ヒカル:僕は15年間日本で生まれ育ったから、根本的には日本人だと感じているんだ。アメリカでの経験から、西洋の視点、文化的社会的な面で、アメリカ人がどう物事を捉えるかも、一部理解できるようになった。でもまだわからないこともあるんだ。
心を開いて、自身の尺度だけでものを見てはいけないと思うんだ。特に日本人は、とても「日本的」な独自の尺度を持っているため、他の視点も尊重することが大事だと思うよ。僕もそうしようと頑張っているけど、難しいときもある。
ノエ:比較できないことも多いから、ゼロから知識を吸収するのも大事だよね。でも逆にアメリカ人だって、特に白人は彼らの視点だけで日本や中国、インドの文化を理解しようしていると思うよ。ただ単に理解しようとするだけでは限界があるということだよね。
「私も『自分って何も知らないんだな』と痛感することが、たびたびあります。話し合いのなかに出てきた『心を開くことが大切』という言葉は、『私は何も知らない』ことを自覚して、それを前提に物事を知ろうと努力することなのかなと思います」とシェリー。
ラボのメンバーたちは、それぞれ人種的な背景や生まれ育ってきた環境が異なります。そのためディスカッションのときでも「私の主観的な意見なんだけど……」「間違っているかもしれないけど、僕はこう思った」など、自分の意見が絶対的に正しいという前提で発言しないように心がけており、「違いがあって当たり前」「互いをリスペクトしよう」という考えのもとに話し合いをしています。
シェリーは「ラボのメンバーも多様な背景を持つ人たちですが、アメリカの大都市は人種の多様化が進んでいるため、こうした『違うことが当たり前』の前提で話し合うのがとても大事です」とコメントし、話題を締めくくりました。