“美しくないファッション”のために高額を投じる人が続出 「アグリーファッション」流行の背景をアメリカZ世代が考える論

「ファッションはZ世代の自己表現!“醜い”ファッション・トレンドの背景は?」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、若者たちのあいだで人気を集めている昨今のファッション事情について語り合いました。

「ファッションはZ世代の自己表現!“醜い”ファッション・トレンドの背景は?」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、若者たちのあいだで人気を集めている昨今のファッション事情について語り合いました。

ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。

9月11日(水)のテーマは「ファッションはZ世代の自己表現!“醜い”ファッション・トレンドの背景は?」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、若者たちのあいだで人気を集めている昨今のファッション事情について語り合いました。

若者たちに人気の「アグリーファッション」に注目

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件から23年を迎えました。ワールドトレードセンターでは、犠牲になったおよそ3,000人の人々を悼む追悼式がおこなわれました)。多くの若者にとってはすでに歴史の一コマですが、復旧作業で大量の有毒物質に晒され、がんなどの病気で亡くなった人は、テロ攻撃で亡くなった人の数を超えています。

そして、この時期はニューヨーク・ファッションウィークで、街中でたくさんのファッションショーが開かれています。そんななか、アメリカZ世代のあいだで話題になっているのが「アグリーファッション」です。

アグリー(ugly)は「醜い」を表す言葉であり、アグリーファッションは派手で奇抜なコーディネートのことを指します。ときにはゴミ箱から拾ってきたようなアイテムを活用し、かわいくもなければ清潔でもない、そんなアグリー(醜い)ファッションが若者たちのあいだで流行になっています。まずは、アメリカZ世代のラボメンバーから詳細を聞いてみましょう。

ミクア:醜いファッションは街中でもネット上でも間違いなくトレンドになっている。醜く見えたり明らかに不自然に見えたりする服を着ているんだもの、面白いよね。パンツとスカートを同時に穿く人もいるし、「そんなの見たことがないよ」って感じ。

メアリー:そういうのを見ると、私の脳内に不気味な反応が起こるんだよ。不気味だけど見続けたい、分析し続けたい。だけど、何が変なのかはよくわからない。だから面白いんだと思う。

ミクア:そうだよね。このファッションの目的って見栄えをよくすることでもなく、かわいく見せることでもない。だって、ベーシックな服を着ていたら話題にもならないでしょう?

でも、超面白い服を着ればネットでバイラル化(口コミで徐々に流行)する。嫌われようが好かれようが、とにかく話題になるってからね。

あと、多くの人は自分の個性を服で表現するよね。奇抜な服を着ている人って、やはり面白い人なんだと思うよ。だから、そういう人がどんなにすごい格好をしていても、それが理にかなっていると納得する、みたいな感じ。

メアリー:ある記事には、パスタソースのシミがついているぐらいのほうが好き、という意見もあったけど、それはちょっとクレイジーだと思う。理解できないな。私には絶対に無理。

目的は見栄えをよくすることでも、かわいくみせることでもないアグリーファッション。パンツとスカートを同時に穿いたり、タンクトップの上にウールのブレザーを着たり、ときにはパスタソースのシミがアクセントになったりもする。Z世代専門家のシェリーは「これまで考えたことがないような、ありとあらゆる奇抜な組み合わせがファッション・トレンドになっています」と説明しました。

ハイブランドもアグリーファッションを展開

コロナ禍のパンデミック前からずっとトップトレンドだった「アスレジャー」。シンプルなスポーツウェアを基本にした、洗練されたファッション・トレンドであり、アグリーファッションとは真逆の存在といえます。

最近は、普通のファッションに飽きて、もっと自分の個性を服で表現したい、目立ちたいという人が増えています。ラボメンバーたちは、アグリーファッションが注目を集める背景について考えました。

メアリー:たぶん、最近のファッション産業が大量生産で、ちょっと洗練されすぎていることと関係があるんだと思うな。

ミクア:でもね、実際にアグリーファッションがどこから来ているのかを見ると、実はすごく高価なブランドだったりするんだよね。そのスタイルのために高いお金を払っているのに、「この人はクレイジーだ。ゴミ箱から出てきたみたい」とか思われてしまう。

適当に組み合わせて着ているように見えるけど、よく見るとすごく高価なデザイナーズブランドだったりする。醜いものでも素敵なものでも、人は流行に従うということなんだと思う。たとえそれが馬鹿げていても、大勢の人々がそれを試して、流行が廃れて、別のものがそれに取って代わる。

ヒカル:10年くらい前だと思うけど、ダーティー・スニーカー、汚いスニーカーを履くトレンドもあったよね? たまにファッション業界全体が、新しくて綺麗なものに抗うような風潮があるんじゃないかな?

ラボメンバーの発言にもあるように、大量生産の服は画一的なだけでなく、サステナビリティという意味でも敬遠する人が増えています。つまり、従来のファッション産業への反抗がアグリーファッションにつながっている可能性が考えられます。

皮肉なのは、ハイブランドがアグリーだと感じるファッションアイテムを展開していることです。今や大半の人は大量生産の服か、ビンテージ服を買います。ハイブランドが生き残るためには、奇抜で高いものを着て差をつけたいという人に向けて作るのが戦略となります。「アグリーファッションは反抗的なようでいて、ファッション業界に取り込まれているというのが現実かもしれません」とシェリー。

「流行は繰り返す」という言葉通り、ヒカルが言っていたダーティー・スニーカーもリバイバルしています。新品なのに汚れて見えるゴールデン・グースは10年ほど前に大流行しましたが、今もまた人気を集めています。「ちなみにお値段は一足565ドル(日本円で約8万円)です。汚れたスニーカーに8万円を出す人がいるんですね」とシェリーは話し、話題を締めくくりました。