ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含めて激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。
9月18日(水)のテーマは「アメリカZ世代から見た大統領選討論会はまるでリアリティ番組 どんな嘘もトランプ支持者は気にしない」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、9月10日におこなわれたハリス副大統領とトランプ前大統領による初めてのテレビ討論会の内容を振り返りました。
候補者たちのテレビ討論会を観たアメリカの若者の感想
大統領選まであと50日を切り、選挙戦はまさにラストスパートに入っています。9月10日、ハリス氏とトランプ氏の初めてのテレビ討論会が実施されました。日本でも話題となりましたが、特にトランプ氏の衝撃的な発言が大論争となり、今もその余波が世界を駆け巡っています。
CNNテレビの世論調査によると、討論会直後のおよそ6割が民主党候補者のハリス副大統領が「勝利」と答えました。また、ケーブルニュースのなかで特に保守派のFOXニュースでさえも、トランプ氏の敗北を認めています。
大統領選に大きな影響を与えると言われる今回の大統領選テレビ討論会を、アメリカの若者たちはどう見たのでしょうか?
メアリー:勝ち負けをつけるとしたら、カマラが間違いなく勝ったと思う。
ノエ:彼女は完全に彼をやり込めたよね。
ミクア:完全にとどめをさしたよね。見ていて面白かったのは、2人がお互いにやり取りをする感じとか、特にトランプの言っていること自体には賛成できないけれど、本当に興味深いエンターテイナーだと思ったよ。すごく面白い人だよね。だから、家族と一緒に彼の話を聞いていて、もう笑いが止まらなくなっちゃった。言うことがいちいち突拍子もなくて面白すぎるんだもの。笑わずにはいられなかった。
ノエ:本当は“面白い”で済ませちゃまずいんだけどね。
ミクア:でも、どうしてもそうなっちゃうんだよ。彼は真剣に、本気で言っているんだから。だけど、こちらは彼が言っていることが信じられなくて、思わず笑ってしまうんだ。
ノエ:討論会を全部見たけど、エンタメとしては最高に楽しんだよ。でも、楽しんでいる自分に対して、「いや、こういう理由で楽しんじゃいけないんだ!」っていう気持ちもあった。だって討論会は、正しい情報を得るためにあるわけだし、国のためになるべきものでしょう?
Instagramなんかでトランプや討論、政治、選挙に関する投稿を見ると、アメリカ以外の人たちから「こんなことを真剣にやっているのはアメリカ人だけだ」みたいに言われているんだよね。アメリカ以外では誰も真剣に見ていないよ、ってこと。みんなジョークだと思っているんだよ。
ミクア:まあ、そう感じるのも無理もないよね。もし私が外から見ていたら、「何これ、どうなっているの?」って思うだろうし。
ノエ:まるでリアリティ番組だよ。
ミクア:これが大統領候補者で、みんなが彼に投票しようとしているなんてね。
7割は民主党寄り、特にリベラルが多いニューヨークの若者たちは、討論会が面白かったと感想を語りました。ラボメンバーのなかには「エンタメ番組として楽しんだ」という言葉もありましたが、一方で「大統領を選ぶための討論会がこれでいいのか?」という葛藤も見えています。
トランプ氏の“嘘”を進行役が即座に否定
ラボメンバーが思わず笑ってしまったという、トランプ氏の「突拍子もない発言」。そのうちの1つは、日本でも広く報道された「移民が犬や猫を食べている」という根拠のない情報です。ラボメンバーから、衝撃を受けたトランプ氏の言動について振り返ってもらいました。
メアリー:よかったのは討論会のモデレーター(司会進行役)が、きちんと自分の役割を果たしていたこと。特にトランプの2つの明らかな嘘については、きちんとファクトチェック、つまり嘘を否定して、彼に逃げ道を与えなかった。1つは「移民が動物を食べているという嘘」、もう1つは「妊娠9ヵ月目の中絶という嘘」。
ノエ:彼が言っていたのは、今一部の州では生まれた赤ちゃんを中絶するのが許されている。で、もしカマラが大統領になったら、それがすべての州で合法になる、みたいなことだったよね。
メアリー:それは文字通り受けとると、「生まれたばかりの赤ちゃんを殺しても合法」という意味になってしまう。
ノエ:それに対してモデレーターがすぐに「それは事実ではありません」と無表情でバッサリ切って、さっさと次の質問に移ったのがまるでコメディみたいだったんだよね。
ケンジュ:それにしても、「ハイチ系移民がペットを殺して食べている」という話もすごかったよね。まさかそんなことを言うとはまったく予想もしていなかったから、みんな思わず吹き出してしまったんだよ。
この「ハイチ系移民が近所の犬や猫を盗んで食べている」というトランプ氏の発言は、特定の人種・民族に対する差別・中傷発言です。そもそもの噂の発信者は、オハイオ州選出の上院議員で、トランプ氏のランニングメートである副大統領候補のJ・D・バンス氏。「知り合いから聞いた」と、この話をSNSに投稿し、イーロン・マスク氏なども拡散していたのですが、トランプ氏が討論会で発言したことで爆発的に広がりました。
トランプ氏の発言直後、モデレーターが「そんな事実はないと、地元の市長が証明しています」とファクトチェックを入れたのですが、事態はまったく収まりませんでした。その後、地元スプリングフィールドの市庁舎と2つの小学校に爆破予告が届き、避難騒ぎとなっています。「今、全米のハイチ系アメリカ人や移民が身の危険を感じています」とZ世代専門家のシェリーは解説します。
どれだけ問題発言をしてもトランプ支持者の意思は変わらない?
トランプ氏の発言を受け、世間では特定の移民を差別、中傷する嘘の情報がヘイトや暴力を引き起こすと非難の声があがっています。では、こうした発言が、トランプ支持者のあいだでも問題となり、彼らの考えを変えるきっかけになることはあるのでしょうか?
ケンジュ:ないね。彼のキャリアを見ればわかるけど、彼はショーマン、俳優みたいなものなんだよ。だから、彼が何を言っても何をやっても“エンタメ”だから、それが問題にはならない。支持者はただ彼が好きだから、それがすべてなんだ。彼が何を言おうが話を曲げて解釈するだろうね。
シェリーが数人のトランプ支持者に取材をおこなったところ、ある人は「トランプ氏は絶対に嘘はつかない」と断言していたと言います。ケンジュが言うとおり、世論調査でも「討論会を見ても自分の支持は変わらない」と答えた人は全体の82パーセントで、考えが変わったという人はわずか4パーセントでした。しかしながら、僅差となっている選挙の状況において、その4パーセントが大きな影響を与える可能性もあります。
シェリーは「今後も大統領選まで、通常のニュースメディアにはなかなか乗らないアメリカの若者たちの本音をお伝えしていきます。ぜひ引き続き聴いてくださいね」とコメントし、話題を締めくくりました。