第二次トランプ政権発足は民主主義崩壊の前触れか…ニューヨークZ世代が“これからのアメリカ”を考える

「トランプ政権誕生直前にニューヨークのZ世代が思うこと “もう何もできないから自分の生活に集中する”」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選を振り返り、第二次トランプ政権の行く末を案じました。

「トランプ政権誕生直前にニューヨークのZ世代が思うこと “もう何もできないから自分の生活に集中する”」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選を振り返り、第二次トランプ政権の行く末を案じました。

ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。

1月15日(水)のテーマは「トランプ政権誕生直前にニューヨークのZ世代が思うこと “もう何もできないから自分の生活に集中する”」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選を振り返り、第二次トランプ政権の行く末を案じました。

巨額が動く米選挙は“民主的”なのか?

2025年、アメリカは年明けと同時にニューオリンズとラスベガスでテロと見られる事件が発生し、多くの人が犠牲になりました。どちらもアメリカ人による同胞をターゲットにした事件で、波乱の1年を予感させるものとなりました。

そして、1月20日には第二次トランプ政権が発足します。トランプ氏は11月の当選直後から、大胆な閣僚人事で波紋を呼び続けていますが、なかでも話題なのは、政権の中枢にイーロン・マスクをはじめとした“超富裕層”が13人もいること。これは史上最高の数です。格差と貧困の問題が広がり続けるアメリカでは、こうした人事に疑問視する人もいます。一方で、ビジネスに長けている人が政治を司るほうがいいといった意見も。

資産を10億ドル以上保有する人を「ビリオネア」と呼びますが、アメリカでは800人が該当します。アメリカの上位1パーセントがビリオネアで、国の資産の3分の1以上を保有している状況です。アメリカ人の3人に1人は貯金もなく、10人に1人以上が貧困であり、この格差は急速に拡大を続けています。

アメリカ人は不公平を感じながらも、なぜトランプやイーロン・マスクなどの超富裕層は支持を集め続けるのでしょうか? アメリカのZ世代が、ビリオネア政治の背景を分析しました。

メアリー:アメリカ人には「階級意識」というものがほとんどないから、人々は自分がどの階層に属しているのかあまり理解していないと思うんだよね。

それどころか、多くの人は「いずれ自分はお金持ちになる」という夢を持っている。それが「アメリカンドリーム」だとされているよね。その結果、みんなが自分を「今はダメだけど、未来の億万長者だから」と考えているんじゃないかな。

ノエ:みんなが「いつかは大金持ちになれる」と信じているということだよね。アメリカでは階級意識が欠けている一因として、最上層が雲の上すぎて、実態がよく見えないからだと思うよ。

たとえば、ビリオネアのマードック家をモデルにした「Succession」というドラマがあるよね。あそこで描かれているような億万長者たちは確実に存在している。だけど、私たちは彼らを見ることなんてほとんどないし、彼らが何百億ドルもの取引をしているとは想像しにくい。

年収30万ドル(4,500万円)くらい稼いでいる人たちなら日常で見かけるよね。それでも「すごく稼いでるな」と感じる。だけど、大きな視点で見ればそんな額は全然トップとは言えないんだよね。

メアリー:一方で、格差の拡大のために人々は自分たちの権利が奪われていることに気づいていないと思うよ。たとえば組合について。なぜか多くのアメリカ人は労働組合に対して否定的なんだよね。組合に入っていない人のほうがずっと増えている。入っていない人は「組合員が与えられている素晴らしい福利厚生を自分は持っていない。だから、彼らもそんな権利を得るべきではない」と考えてしまう。

それよりも、自分たちも組合を作って、同じ権利を手に入れる努力をすればいいのに。こういう認知的不協和っていうのかな、本人も気づいてい激動の年明けとなった2025年。2週目に入り、ロサンゼルスで大規模な山火事が発生。1万2,000以上の世帯が焼け、犠牲者の数は少なくとも20人を上回っており、行方不明者もいます。特にマリブの高級住宅地があるパシフィック・パリセーズという地域では、マンハッタンの2倍にも相当する面積が消失しました。全米に衝撃が走っているこのニュースに、ニューヨーカーも釘付けになっています。

そして、1月20日にはいよいよ第二次トランプ政権が誕生します。アメリカ大統領選にて、Z世代の過半数はカマラ・ハリス氏に投票。トランプ氏に入れたラボメンバーは1人もいませんでした。新政権の誕生を前に、彼らは何を思うのでしょうか?

シャンシャン:前向きに考えようとしている。少なくとも、前回みたいに議事堂が襲撃されることはないだろうしね。

ケンジュ:選挙が終わってからはもう考えるのをやめたんだ。あの頃はニュースにもスマホにも情報が溢れていたけど、最近はあまり見なくなった。というか、あまり聞かなくなった。そんなわけで、個人的には今年はいい年になると思っているんだ。

シャンシャン:前回の大統領選に比べると、私の周りで投票に行く人が大幅に減ったんだよね。行っても何も変わらない。みんな諦めている。どうでもいいんだと思う。

ノエ:みんな疲れているんだと思うよ。先日、バーニー・サンダースのビデオを見たんだけど、上位1パーセントの人たちが選挙に使うお金はとんでもない金額だった。ある意味、アメリカにはもう民主主義がないんだ。大きなロビー団体や企業、裕福な億万長者たちが、誰が大統領になるか、どんな法律が可決されるかをコントロールしている。

多くの人たちは、このことを理解していると思うし、抗議したり投票したりしても、実際には何もできないと失望している。だから、抗議活動にももはや積極的に参加しないんだと思う。

2024年の選挙全体で使われたお金は日本円で2兆5,000億円という衝撃の金額でした。そのなかには、イーロン・マスク氏がトランプ氏につぎ込んだ430億円も含まれています。

選挙に巨額が投じられた背景について、Z世代専門家のメアリーは「アメリカでは2010年の法改正とそれに伴う法の抜け穴のおかげで、選挙資金が無制限に使えるようになりました。それが民主主義を弱体化しているという批判が絶えないのも事実です」と説明しました。ない矛盾した考えや行動が問題の根源だと思う。

こんなに貧富の差が開いても、超富裕層に対しては不公平と感じない。なぜなら「いつか自分もお金持ちになれる」というアメリカンドリームがあるから、とラボメンバーは推測します。植民地からの独立という経緯で誕生したアメリカ合衆国は、出身や階級に関係なく、「自らの努力で成功をつかむことができる」という考えを強く持ちます。

ですが、一方で“持たざる者”同士の争いも絶えません。自分が持っていないものを隣人も持つべきではないという考え方がアメリカにはびこっています。「ビリオネアが少しでも富を分配すれば多くの人の暮らしが楽になるのに、というのが富裕層への増税を呼びかけるプログレッシブの考え方です」とZ世代専門家のシェリーは解説します。

強大な力は正しく行使されるのか

自分たちの意見は、選挙や政治に反映されないのではないか。投票や抗議行動の結果が実を結ぶことはないのではないか。今回の選挙によって、特にハリス氏を支持した若者たちのなかには、不信感や無力感が高まっています。

だからこそ、政治ではなく自分自身に集中し、2025年をいい年にしたい。ラボメンバーの話には、そんな思いも感じられました。一方で、会話を重ねるなか、トランプ政権や今後の不安も少しずつ浮かび上がってきました。

メアリー:アメリカはクレイジーな人たちが支配する国になったと感じる。カナダを併合するとか、グリーンランドもアメリカの一部にするとか。一体アメリカはどうなっちゃったのって感じ。

それにトランプ支持者はみんな、彼がいかに平和を愛する鳩で、ウクライナ戦争やイスラエル戦争はすぐにでも終結されるかのように話していた。ところが、今彼はグリーンランドやパナマ運河を得るために、必要なら軍事力も使うとか言っている。平和的な鳩はどこに行ってしまったの?

ヒカル:というか、どうやってカナダをアメリカの51番目の州にするの? そんなのめちゃくちゃだしナンセンス。ほとんど不可能だよ。彼はただ戯言を言っているだけなんだ。

メアリー:たしかにそうだよね。でも彼は選挙期間中、ずっと言いたい放題めちゃくちゃ言ってきたのに当選したよね。だから、もうナンセンスだと言って済ませることはできないと思うんだ。だって彼にはすごい権力が集まっているんだよ? 彼が何か言えば、みんながハイハイと従ってしまう状態なんだ。

掲載中止になった新聞の風刺漫画があるでしょう? さまざまな人々がこぞってトランプに大金を差し出している漫画だった。特にシリコンバレー全体はもうトランプ一色に染まってしまっている。こうなると、もうできることは限られているよ。

カナダを51番目の州にする、グリーンランドやパナマ運河も手に入れる、必要なら軍事力の使用も辞さないというトランプ氏の発言は世界に衝撃を与えました。ラボメンバーの反応はさまざまで、戯言だと冷笑する人もいれば、これほどのパワーを持った存在を無視はできないという声もあります。

メアリーが発言した風刺漫画とはワシントンポストの人気風刺漫画家が書いたもので、ワシントンポストのオーナーでもあるAmazonのジェフ・ベゾスはじめ、ビリオネアたちが巨大なトランプの前にひざまずき、お金が入った袋を指し出しているものでしたが、出版前にボツとなりました。

描いた漫画家はそれに抗議して辞任。こうした風刺漫画を掲載拒否するのは「言論の自由の自主規制」と批判されていますが、以前のアメリカでは考えられません。「最初のトランプ政権とは桁違いのパワーだと多くの人たちが実感しました。トランプ政権のこれからの4年間、いったい何が起きるのか。世界的な分断や格差はどうなるのでしょうか。来週に続きます」とシェリーは語り、話題を次回に繋げました。