“選挙人”の獲得数で決まるアメリカ大統領選に国民は納得している? ニューヨークZ世代が選挙制度の是非を問う

「アメリカの大統領選が複雑すぎる! 変えたくても変えられない理由をNYのZ世代が本音で議論」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選の選挙の仕組みや、その必要性について議論しました。

「アメリカの大統領選が複雑すぎる! 変えたくても変えられない理由をNYのZ世代が本音で議論」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選の選挙の仕組みや、その必要性について議論しました。

ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。

11月6日(水)のテーマは「アメリカの大統領選が複雑すぎる! 変えたくても変えられない理由をNYのZ世代が本音で議論」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカ大統領選の選挙の仕組みや、その必要性について議論しました。

アメリカ大統領選は直接投票ではない

大統領選で、日本でもよく聞かれるのはアメリカの選挙制度の複雑さではないでしょうか。アメリカの大統領選の仕組みにおいて、有権者は大統領を直接選んでいるわけではなく、選挙人を選びます。

アメリカの大統領選は、各州の人口を元に選挙人が割り当てられています。投票日には一般の有権者が投票しますが、一部の例外を除き、各州でもっとも票を得た候補がその州の選挙人を総取りする仕組みです。

選挙人は全部で538人、その過半数の270人を獲得すれば当選ということになります。一見問題がなさそうですが、実は過去20年間でこのシステムがうまく機能しなくなってきています。

たとえば、この制度ではいわゆる激戦州だけで選挙結果が決まるようになっています。つまり、カリフォルニアやニューヨークなどの大きな州では、どんなに頑張っても結果に影響しない状況が起きています。

また、2016年のトランプ氏対ヒラリー氏の選挙において、トランプ氏は十分な選挙人を獲得して当選したのですが、全米の直接投票である一般投票では、ヒラリー氏が300万票も多く得票していました。直接投票で勝っても選挙人投票では負けるという異常事態が、過去6回の選挙で2回起こっています。

アメリカの選挙制度は多くのアメリカ人が厳密には理解していないだけでなく、65パーセントの人は廃止したほうがいいとすら考えています。民主主義と言えるのか? という論争も高まるなか、アメリカZ世代のラボメンバーたちはどう考えているのでしょうか?

メアリー:この国は共和国なので、私たちを代表する人々が必要なんだよね。それが選挙人団。なぜ選挙人団が生まれたかというと、たしかアメリカ建国の父の一人が「一般人は愚かだから。より賢く、国民をよりよく代表する人が必要だ、と考えたことから始まったんだよね。それで、投票する私たちの上に、もう1つ層が設けられたというわけ。だから、アメリカは厳密には民主主義国ではなく、実際には民主的な共和国ということになるんだよね。

シャンシャン:私はこの仕組みを変えるべきだと思うな。だって、現代の人々はよりいい教育を受けているんだから。建国の父たちが言ったみたいに、そんなに愚かではないと思うよ。私たちはしっかりとした考えを持っている。

そして、建国時代と違う点は、当時に比べて人口がとても多いこと。昔のアメリカの小さな町は数百人だったかもしれないけど、今や何百万、いや数億にもなっているでしょう? そのうちの半分が投票しているということは、何百万もの人々がしっかりとした判断力を持っているはず。だから、選挙人制度はやめて直接選挙にしたほうがいいと思うな。

建国時代と今はまったく違うのだから、選挙人制度はやめたほうがいい、という意見がラボメンバーから出ました。「4年前の選挙で負けたトランプ氏が選挙の不正を訴え、最終的に議会襲撃にまで発展したのも、この制度の複雑さが大きな要因になっています」とZ世代専門家のシェリーは説明しました。

選挙人制度を廃止するとどうなる?

アメリカの複雑な選挙制度を変えようとする動きは始まっています。改革案のなかでもっとも知られているものは、「National Popular Vote Interstate Compact」と呼ばれるものです。これは、たとえその州の結果と一致しなくても、全米での一般投票の勝者に選挙人を全部与える取り決めです。この取り決めにはすでに17州(209の選挙人)が加入しています。

変化を望む声があがるなか、一方で変えないほうがいい理由もあるとラボのZ世代は考えます。

ノエ:選挙人制度には賛成できないけれど、そこまでひどいものだとは思っていないんだ。なぜって、完全に一般投票を無視しているわけではないからね。勝者総取りではあるけれど、その州の人々の投票を基準にしているわけだから。

メアリー:それに選挙人制度を廃止したら、保守共和党が再び大統領に就くことは決してないでしょうね。だから、共和党支持者は絶対に反対するはず。実現はしないと思うな。

たとえばワイオミング州を見てよ。保守的で、少ない人口のほとんどが共和党支持だよね。一方で、カリフォルニアやニューヨークなど圧倒的に人口が多い州は、ほとんどが民主党支持。当然、彼らは民主党に投票するよね。

だから、今後は一般投票で誰が勝つかというと、圧倒的に民主党になるはず。そうなると、共和党寄りの意見や傾向が多いアメリカ中央部や、人口の少ない州に住む人の声は政治に反映されなくなってしまうかもしれない。多数派ではないから無視される。そう考えると少し悲しいな。

ニューヨークやカリフォルニアなど海岸部の大きな州の大都市に人口が集中するなかで、移民や若者を中心にリベラル化し、民主党支持に傾いていくアメリカ。彼らの意見だけが重視され、保守的な人たちの意見が無視されたら、いくら多数決が原則の民主主義とはいえど、正しく国が機能しているとは言えません。

正義や公平を保つためには、少数派の意見も尊重すべき。その考えが「簡単に選挙人制度を廃止すべきではない」という意見につながってきます。

Z世代は全体的にリベラル化しているとはいえ、ダイバーシティを大切にする、つまり違う価値観や考え方の人との共存を望んでいます。そして、それがアメリカの向かうべき方向だと考えています。 「そもそも、トランプを強く支持するMAGA(Make America Great Again:アメリカを再び偉大な国にする)のような人たちが台頭したのも、自分たちが中央の政治に無視されている、軽く見られているという長年の不満が積もったからで、それが今の分断にもつながっています。若いZ世代はその分断に疲れきっていて、それを変えたいと強く願う世代でもあります」とシェリーは発言し、話題を締めくくりました。